レアな「有料の急行」 元“通勤電車”で中身は“特急”!? 埼玉の至宝「秩父路」に乗ってみた
1日2往復のみ
かつて日本全国を走っていた有料の「急行」列車。その大半が廃止され久しいですが、現在も埼玉県内で運行される有料急行があります。 それは秩父鉄道の羽生~三峰口間を走る急行「秩父路」です。同鉄道は全線で71.7kmと、地方私鉄としてはかなりの距離を持ち、「秩父路」も全線を走ります。 「埋められたドア」はどうなっている? 急行「秩父路」のかなり豪華なシート(写真) 「秩父路」は、平日に影森~熊谷間を1日2往復、土休日に羽生~三峰口(上りは影森~羽生)間を1日2往復運行します。全線を通しで走る「秩父路3号」の場合、所要は1時間40分。停車時間を含む平均速度である表定速度は43km/hと、高速ではありませんがクロスシートの専用車両6000系電車を投入し、平日には普通列車の追い抜きも行います。 その歴史は1969(昭和44)年に遡ります。運行区間は熊谷~三峰口間で、300系電車にて運行されました。300系は座席間隔1500mmと国鉄急行形よりも広いクロスシートを備え、トイレも備えていました。「秩父路」運行開始後は専用車両として、1992(平成4)年まで使われています。 2代目の専用車両は、元・国鉄急行形である165系電車を改造した3000系電車です。前面非貫通化、トイレ撤去、デッキの仕切りドアの自動化を行い、1992年から2006(平成18)年まで使われました。3000系は3編成が導入されたため、急行は増発も可能となり、羽生駅への乗り入れも実現しました。 2006年に3代目専用車両として登場したのが現在の6000系です。1979(昭和54)年に製造された西武鉄道新101系電車を改造しています。もともとは3扉のロングシート車でしたが、中央扉を埋めて2扉としたうえで、西武鉄道10000系電車「ニューレッドアロー」に装備されていたリクライニングシートを取り付けました。
終点まで乗る人は少ない
リクライニングシートは回転機構を固定され、ボックスシートとして設置されています。戸袋窓部分は向かい合わせではなく、集団見合い式の2人掛け。埋められた中央扉部分は大型の固定窓となっており、座席が特急形のため優等列車らしい区画です。それ以外の座席は元・通勤形らしく、窓が開閉できます。運転席の後ろにも座席はありますが、前面展望は困難です。 それでは、今や全国的にも貴重な有料急行の利用はどの程度あるのでしょうか。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2024年4月の土曜日に、影森駅8時48分発の「秩父路2号」に乗車しました。 羽生行きの車内はほぼ空席でした。8時51分発の御花畑駅で乗車がありましたが、それでも15人程度。6分後に羽生行き普通列車が出るため、210円の急行券が必要な「秩父路2号」は敬遠されているのでしょう。終点まで乗れば普通列車との差は22分まで広がりますし、リクライニングシートは快適なのですが……。 とはいえ秩父駅、皆野駅と少しずつ乗客を増やしました。秩父~皆野間にはセメント工場が隣接した貨物駅の武州原谷駅があり、貨車が多数止まっています。皆野~長瀞間には荒川橋梁があり、水面からの高さ20mという迫力の景色が楽しめます。 9時10分発の長瀞駅で4人乗車。下車も見られ、次の野上駅出発時の乗客は14人でした。東武東上線、JR八高線と接続する寄居駅では、3人下車し、1人乗車。ここで三峰口行き「秩父路1号」と列車交換しました。あちらは茶色の入った秩父鉄道旧標準色編成。「1号」は座席の半数程度が埋まり、乗車率は50%ほどと見受けられました。 寄居駅を出ると速度が上がります。最高速度である85km/hを出しているようで、振動も大きくなりました。