『室井慎次』亀山Pが痺れた「無職です」の一言 肩書きで生きない室井の魅力
柳葉敏郎が譲らなかったこと
柳葉は「今回は悩んでいる室井でいいよね」と最初に亀山プロデューサーに確認したという。「警察時代の室井は、AかBかを選択しなければいけないポジションで、最後の責任を誰がとるのか苦慮するという立場でした。でも、判断に悩むということはなかったと思います」と亀山プロデューサーは室井の立場を解説する。確かに、子育てに悩み、地域の人々との交流に悩むのが、今回の室井だ。「捜査をしたいとか、するとかも、一切言ってない。盟友といえる新城(賢太郎/筧利夫)に言われたから捜査本部には来たけど、という立場を崩さないんです。そこは柳葉さんもてこでも譲らなかったです。意固地でしたね(笑)」 そして「現場の刑事の捜査は、室井はほとんどしたことがないはず」と柳葉が言ったことで、撮影現場で台詞や行動の割り振りが大幅に変更になったという。「犯人の声を分析するとか、こういうことじゃないかと推理するとか、むかしの刑事のカッコよさみたいなのを求めたら、全部否定されました(笑)。でも確かに、リタイアした上級官僚ってそういうものだと思います」と亀山プロデューサー。そのため、捜査一課の刑事として今作から登場した松下洸平演じる桜章太郎に台詞が振られたが、「お願いしたら快くやってくださって、しかもピタッとはまった。彼がガンガン進めることで、捜査のシーンがスムーズでした」と打ち明けた。
「踊る」という物語の軸の一端をなした室井慎次に決着をつけたいま、亀山にとって「踊る」とは何か。好きなポイントはどこなのだろう。「いまさら好きも嫌いもないです。たとえば、27年連れ添った奥さんに、好きとか嫌いとか言いますか? ずっと一緒にいて、責任をシェアして生きてきたんです。結果、自分は別れていたつもりだったのに、メール1本で別れられてなかったことがわかってしまった。これからも付き合い続けると、お互い老後を考えなきゃいけなくなるから、もう別れるのは無理かなと思います」と新たな覚悟を決めた様子。「デカくなりすぎたことは『踊る』の嫌いなところかもしれないですけど、そうしたのは誰かって言われたら、僕らですからね」(取材・文:早川あゆみ)
『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』は全国公開中