「ひとたび始まれば国家の歯車に」同じ仕組みで繰り返される戦争 暮らしを奪い脅かす…巻き込まれる人々の「心の機微」描く大平一枝さん【思いをつなぐ戦後78年】
社会から失われつつある価値観や市井の暮らしをテーマに執筆活動を続ける文筆家の大平一枝さん(58)は、2017年にノンフィクション「届かなかった手紙 原爆開発『マンハッタン計画』科学者たちの叫び」(角川書店)を出版した。自身がそれまで取り組んできたテーマとはかけ離れたタイトルのようにも見えるが、大平さんは「戦争も原爆も暮らしの延長にある」と語る。 作品では、取材のため渡った米国で「『原爆を落とした国』と『落とされた国』の間にある河の圧倒的な深さ」に直面し、途方に暮れたとつづっている。葛藤を抱えながら独自の視点で歴史の裏側に迫った大平さん。戦争と暮らしのつながりを題材にした小説にも取り組んでいるという。その思いを聞いた。(共同通信=小作真世) ▽原爆投下はやむを得なかった…米国で直面した「深い溝」 原爆開発に興味を持ったきっかけは、2016年に偶然目にしたテレビ番組です。当時のオバマ米大統領が広島を訪れ、原爆関連の番組が立て続けに放映されていました。米国で広島への原爆投下に反対し、署名を集めたレオ・シラードという科学者がいたと知り、衝撃を受けました。関係者に話を聞こうと駆り立てられるように渡米しました。
ただこの時の取材では、原爆投下を巡る日米間の認識の違いを痛感しました。開発に携わった90代の女性に「原爆が多くの命を奪ったことをどう思うか」と尋ねると、「今の北朝鮮はどうなのか」と質問を返されました。当時の日本は、核ミサイル開発を続ける現在の北朝鮮のような位置付けであり、投下はやむを得なかった、という意味でした。 私は「えっと…」と言ったきり言葉が続きませんでした。あの時どう答えるべきだったのか―。今も分かりません。途方に暮れ、沈んだ気持ちで帰国の途に就きました。 17年の「届かなかった手紙」は、マンハッタン計画に携わりながら原爆投下を阻止しようと奮闘した動いたシラード氏の軌跡をたどりながら、当時の科学者らの心境を探る内容です。埋もれた歴史を伝えようと力を尽くしましたが、私が願うほど多くの読者には広がりませんでした。 ▽大罪であっても気づかず止まらない 結果的に原爆を正当化する科学者と対峙し、その背後に戦争の仕組みを見ました。ひとたび戦争が始まると、人々は国家の歯車となる。与えられた仕事に力を尽くせば、達成感を得られます。それが大罪であっても気付かないまま、止まらなくなってしまうのです。