欧州版「30 UNDER 30」2024、AI分野の起業家たち
欧州連合(EU)の欧州議会が米国時間3月13日に可決したAI法は、人工知能(AI)規制の世界基準を打ち立てた。EUがAIの未来を形作るリーダーとしての地位を確立しようとする中、欧州の起業家たちは、責任あるAIを幅広い産業で推進している。 その1人が、静的なグラフィックスとインタラクティブなグラフィックスの両方の作成方法に革新をもたらしたLinearity(リニアリティ)創業者のウラジミール・ダニラだ。同社はマーケティング業界に照準を絞り、アドビやフィグマなどの大手と競合している。現在24歳のダニラによると、アップルやディズニー、メタ、マイクロソフトなどの大手企業が、リニアリティのデザイン・プラットフォームを導入しているという。 彼が目指すのは、デザインツールを簡素化し、より利用しやすくすることだ。リニアリティは、これまでに2000万ドル(約30億円)を調達しており、今後はAIを用いた自動化とコラボレーションの機能を拡大する計画だ。 ベルリンを拠点に活動するダニラは、AIが万能のソリューションではなく、人間の創造性に取って代わるものではないことを理解している。現状、リニアリティが提供する機能は、AIによる背景除去と自動トレースの2つだ。「本当に重要なのは、ユーザー体験を向上させるためにこれらの技術を使えるようにすることだ」と彼は話す。リニアリティは今年後半、ブランドの商品画像を一変させる生成AI機能を発表する予定だ。
「AI吹き替え」のユニコーン
今年の欧州版「30アンダー30(30歳未満の起業家30名)」のテクノロジー部門には、多様なAIアプリケーションを開発する若手起業家が選出された。フォーブスは本リストの選考にあたり、2024年4月9日時点で29歳以下の起業家を対象とした。 ■「AI吹き替え」のユニコーン 今年の選出者の中で資金調達額が最も多かったのは、1億100万ドル(約169億円)を集めた、共に29歳のマティ・スタニシェフスキとピョートル・ダブコフスキらだ。ポーランドで育った2人は、米国映画の吹き替えの質が低いことに不満を抱き、2022年にAI音声技術企業のElevenLabs(イレブン・ラブス)を創業した。同社は、2023年1月に音声合成プラットフォームのベータ版をリリースし、オーディオブックやビデオゲーム向けに29言語で人間のような音声を作成している。同社の評価額は11億ドル(約1696億円)に達し、ユニコーンの仲間入りを果たした。 他の選出者たちは、気候変動やサイバーセキュリティなどの世界的な問題を解決するためにAIを活用している。ベルギーに本拠を置くDockflow(ドックフロー)を創業した28歳のポーリン・ヴァン・オスタイエンと29歳のミヒエル・ヴァリーは、海運業界向けにリアルタイムでコンテナ追跡とCO2排出量モニタリングが行えるAIプラットフォームを提供している。現在、同社は新たな資金調達ラウンドを終えようとしており、評価額は500万ドル(約6億円)に達する。 また、ロンドンに本拠を置くマッピング会社Kestrix(ケストリックス)の共同創業者で26歳のルーシー・ライオンズは、サーマルカメラを搭載したドローンとAIを使って建物の3Dの熱損失モデルとエネルギーレトロフィット計画を作成し、CO2排出量の10%を占める冷暖房機器の課題解決に取り組んでいる。 サイバーセキュリティ企業Secfix(セクフィックス)の共同創業者の29歳のファビオラ・ムンギアは、自動化技術を用いて企業がデータ保護法に準拠できるよう支援している。同社は2021年の創業以来、コメルツ銀行のベンチャーキャピタル部門であるオクトパス・ベンチャーズから420万ドル(約6億4000万円)を調達している。 29歳のシモ・レンハンデスは、パリに本拠を置くfolk(フォーク)の共同業者だ。同社は、顧客データと顧客との交流データを一元管理し、よりパーソナライズされた営業アプローチを可能にするオールインワンのCRMツールを提供している。同社は、これまでに900万ドル(約13億円)以上を調達しており、顧客数は1800社を超える。ユーザーは、フォークのAI搭載プラットフォームを使うことで潜在顧客に優先順位をつけたり、フォローアップのリマインダーを設定したりすることができる。同社は、CRM大手のセールスフォースなどと競合している。
Forbes