近視を甘く見てはいけない...医師が教える「失明リスク」を防ぐ習慣
「眼軸」が長くなる負のスパイラル
「ならば近視でも良いのでは?」と考えるのは禁物です。先ほど近視が「悪循環になりやすい」と言った理由をお話ししましょう。 近視は網膜より手前にピントが来ますが、それは相対的に目の奥行が長い、医学的に言えば「眼軸が長い」ということです。なぜ長くなるかというと、近くにあるもの、例えばスマホやパソコンの画面、印刷物の活字などを頻繁に見るせいです。 遠くからの光は平行に入って来るのに対し、近い光は広がりを持ちます。すると水晶体は厚みを増して光を強く屈折させ、ピントを手前にしようと頑張ります。それが頻繁になると、面白い現象が起こります。眼自体も奥に伸びよう、眼軸を伸ばそうと頑張るのです。その結果、近いものだけ見えて、遠いものがぼやける症状が起こります。 なぜなら眼軸が長くなったことで、眼が前後に長い「楕円形」になっているからです。奥にある網膜のカーブが強くなり、本来のピント面のカーブとの間にズレが出るのです。 これが、近視の9割を占める「軸性近視」です(上図)。 近視と診断されれば、メガネをかけますね。軸性近視の場合、メガネは「見ているもの」にピントを合わせてはくれますが、周辺部はぼやけます。 見たいものにピントが合うなら問題ないかと思いきや、最新の研究では、目は見ているものより、周辺部がぼやけていることのほうを「気にする」性質があることが判明しています。 その結果、周辺部にもピントを合わそうと、さらに眼軸が伸びます。するとまた「見たいもの」がぼやけてきてメガネの度数を上げ、またまた周辺部がぼやけて眼軸が伸びる......というスパイラルに突入。これが、近視が悪化するメカニズムだと考えられています。
近視の人の目は 「もろくなる」!?
深刻な目の病気にも、眼軸の伸びが関係するという見方が広まっています。例えば、網膜に穴が空いたり破れたりする「網膜剥離」。ボクサーなどが顔面に衝撃を受けたときに発症するイメージが強いですが、近視の人もリスク大。眼軸が長くなった結果、網膜が過剰に伸ばされ、破れやすくなるからです。 「近視性黄斑症」という病気もあります。網膜およびその裏にある「脈絡膜」が薄く伸ばされ、血流が悪くなるのが原因です。そうなると身体は酸素を送ろうとして微小な血管をたくさん作るのですが、その血管は非常にもろいため、出血したり、ものが歪んだり、薄暗く見えたりする症状が起こります。 さらに身近な病気としては「白内障」があります。水晶体のタンパク質が加齢とともに白濁する病気ですが、眼球が楕円状に伸びて代謝が悪くなることが一因という説も。白内障は現在、世界の失明原因の第一位です。 対して、日本人の失明原因の第一位は「緑内障」。目の膨らむ力(眼圧)に圧迫されて視神経が死んでしまい、視野が狭窄する病気です。網膜が薄く血流が悪いと、眼圧に対してさらに脆弱になると考えられます。