新型BMW X5 M60i xDriveは、“高性能”をマシュマロでくるんだみたいな極楽快適ラグジュアリーSUVだった!!!
わかったひとの知的選択
街中の40km/hぐらいだと、メモリの大雑把なタコメーターだと、エンジン回転数は0に近い。それでも、ドラゴンが呼吸しているようなV8の存在感は隠しようがない。信号待ちでエンジンが休止すると、あたりは静寂に包まれ、ブレーキの踏力をゆるめると即座に目を覚まし、発進時にグオッと控えめな咆哮をあげる。なんとなく戦車感がある。車重が車検証値で2410kgもあるからだろう。 「ドライビングパフォーマンスコントロール」という名称のドライブモードでコンフォートを選んでいると、8ATは2500rpmもまわらないうちにシフトアップする。タンクのくせに、乗員にはやさしく接することを心がけている。 試しにアクセルを深々踏み込むと、たちまちダウンシフトし、一瞬つんのめる。でもっていきなりターボパワーが炸裂し、空に飛び上がるような加速と振る舞いを披露する。 ドライブモードをスポーツ、スポーツ+へと切り替えると、乗り心地は俄然引き締まり、エンジンもドライバーの指令を待ち構える態勢をとる。アクセルをガバチョと踏み込んでも、フロントやテールが沈み込んだりはしない。スポーツ+だと液晶スクリーンが赤く発光し、アクセルオフではブリッピング入れながらダウンシフトする。V8が雄叫びをあげ、ドライバーを興奮させる。ぐるるるるるッ、グオオオオオオオンッ! 群雄割拠の高級SUV市場にバイエルンからウォリアーっとばかりに送り込まれた新たな戦士。生産しているのは初代以来、アメリカ南部、サウスカロライナ州のスパータンバーグにあるBMW工場だけれど、つくりはメイド イン ジャーマニーと違わない。価格は1520万円で、X5 Mコンペティションの1972万円よりおよそ450万円もお求めやすい。あえてX5 M60i xDriveにとどめておく。というのも、わかったひとの知的選択のように思える。それにはもちろん、分厚いお財布が必要……いや、最近は電子マネーだからいらないか。 インテグレイテッドアクティブステアリングなる後輪操舵を備えているから、操舵に対して俊敏で、実際のサイズから想像するより運転しやすい。ただし、当たり前ですけれど、物理的に小さくなるわけではない。全長4935×全幅2005×全高1770mmの巨体ゆえ、とりわけ狭い道はご用心。そういうのを気にせず、でっかいSUVを都会で乗りこなしている姿がはたから見て、冒険的でカッコいいわけである。 高性能をマシュマロでくるんだみたいな極楽快適ラグジュアリーSUV。いまどき反道徳的ではあるものの、だからおいしい。おひとつ、どうぞ。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)