春雨や晴太さん、遠峰あこ先生 ごひいき願います!
デジタル時代だが、落語がブームです。講談・神田伯山や浪曲・玉川奈々福の活躍もあり演芸も元気がいい。チケット入手が困難な人気者も相当数います。この勢いに続けと、若手でも有望な芸人さんが多く登場してきました。彼らに注目しているひとり、落語・演芸を長く追い続ける演芸写真家・橘蓮二が、毎回オススメの「期待の新星たち」を撮り下ろし写真とともにご紹介いたします。 【全ての画像】春雨や晴太、遠峰あこの写真
「生まれ変わった落語家」──春雨や晴太
7カ月間の休養を経てカムバックした姿は以前とは別人と見紛うばかりの観客の反応を受け止める懐の深さと安定感抜群の所作と語り口が印象に残る見事な高座だった。大学卒業後、約7年に渡り会計士の仕事をしていた。日々ミスなく勤め上げてもクライアントからの身勝手な要望やプレッシャーに曝され続けることも珍しくない毎日。そんな激務が続き細かく削られるように疲弊していく気持ちに当時安らぎを与えてくれたのが落語だった。 それまで落語に関しての知識は皆無だったが次第に自分がお客さまに喜んでもらえる存在になりたいという気持ちが芽生え始め気付けばプロの道へ進むことを決意していた。2015年2月四代目春雨や雷蔵師匠に入門、4年半の前座修業を終えて2019年11月二ツ目昇進、2021年より結成された落語芸術協会の若手ユニット「ルート9」にも参加、精力的に活動の場を広げていたが真っ直ぐ真面目に落語に向き合おうとすればするほど気付かぬうちに心は迷走していった。無力感に苛まれ全てが停滞した状況下で導き出した答えは、暫くの間“落語から離れること”。結果的にこの判断が功を奏した。自己分析するとドライでタイプ的にはあまり感情の起伏がないと語るように自身を客観的に見ることは元々得てだったことで時間をかけながら内面を推敲するようにひとつひとつ的確に気持ちを整理することができた。例えばルート9の活動に於いて以前は回を重ねる毎に他のメンバーの技術や表現力の上達を感じると焦燥感が募ったが現在は他者との違いを認めながら自分の任に添った表現を模索するようになったと言う。 持ちネタ数は古典、新作合わせて100席に迫るほどの努力家。新作もほぼ毎月のペースで高座にかけているが、今は古典落語を磨くために即効性はなくとも何かのタイミングで物語に奥行きを持たせる細やかなヒントになればと次々とかけ捨てにしている。質を担保するために噺を量産しつつも細部により神経を行き渡らせる。確りと言葉を眺め、一文・一語に感情を乗せることを心掛けている。目標とする落語はお客さまが疲れない、爆笑よりも思わずクスッとする笑い。そして後になってから思い出す落語家になりたいと控えめに語る。 晴太さんは繊細であるが故に自分が見え過ぎていた。見え過ぎるのは見えていないことに等しい。しかし一旦心を休め生まれ変わった今は落語家として生きる道に綺麗に焦点が合っている。“新生 春雨や晴太”素敵な若手がまたひとりここにいる。
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