金属恵比須、ライヴ・アルバム『邪神〈ライヴ〉覚醒』発売記念トーク・イベント開催 新メンバーのお披露目も
プログレッシヴロック・バンド、金属恵比須がライヴ・アルバム『邪神〈ライヴ〉覚醒』を12月11日にリリース。これに先駆け、12月7日の13時より東京・新宿「ROCK CAFE LOFT is your room」にてトーク・イベント〈最強ライヴ盤決定戦!〉が開催されました。 12月4日には、金属恵比須がバック・バンドを務めた、XOXO EXTREMEによるエイジアの公認カヴァー・シングル「Daylight」も発売されるなど、リリース続きで盛り上がる中開かれた本イベントは、ライヴ・アルバム『邪神〈ライヴ〉覚醒』に参加した塚田円もゲストに迎え、“最強のライヴ盤決定戦!”と題して昼間からお酒を囲んで音楽を語りつくす異色のイベントとなりました。 また、この日は、新メンバーの春木香珀のお披露目も。賑やかながら大ニュースも発表された金属恵比須の大忘年会の模様をレポートします。 [イベント・レポート] 金属恵比須が、ライヴ・アルバム『邪神〈ライヴ〉覚醒』のニュー・リリースを記念し、12月7日、新宿「ROCK CAFE LOFT is your room」(通称ロフトカフェ)にて大忘年会トークイベント〈最強ライヴ盤決定戦!〉を開催した。 2023年のメンバー脱退を経て、20代の若手ベーシスト・埜咲ロクロウを迎えて活動を継続してきた金属恵比須。鍵盤楽器のポジションは不在のまま、2024年はプロビデンス~那由他計画の塚田円と烏頭の大和田千弘をそれぞれ迎えて2回のライヴを敢行した。 ライヴ・アルバム『邪神〈ライヴ〉覚醒』は、異能2人をそれぞれ招いたこの2公演をパッケージしたもの。〈最強ライヴ盤決定戦!〉にもゲストとして塚田円を迎えていた。 イベントは、前半と後半に分かれた2部構成で、メンバーの“推しのライヴ盤”を皆で飲みながら聴き、休憩を挟んで、どれが1番かを投票で決めるという趣向だ。審査委員長は塚田円が務める。また、第2部には新メンバーのお披露目も控えており、店内は和気藹々としながらも、「誰なのか?」と興味が高まっているムードだった。 機材を担当するのは、2024年より正式加入した若手ベーシストの埜咲ロクロウ(b)。早くも新入りが使われている様子に会場からは労いの拍手も。そんな中、前半は高木大地(g,vo)の“推しのライヴ盤”から始まった。 高木の推し盤はディープ・パープルの『メイド・イン・ヨーロッパ』(1976)。高木の推し曲が流れる前から、塚田が「ストームブリンガーです」とネタばらしをしてしまったからか、いきなりの大ネタに会場も沸く。 塚田が「『ハリガネムシ』はこの曲パクってるな、いやパクリじゃない、オマージュのギリギリ(一同笑い)。パクリのギリギリを攻めた曲」と、金属恵比須の代表曲「ハリガネムシ」の元ネタであることを紹介すると、高木は「当時の歌詞カードは聞き取りで歌詞を作っていた」とスタジオ盤とライヴ盤で歌詞カードが違うことを疑問に思った小学生時代を振り返りつつ、荒々しい音作りに「スタジオ盤より好き」と思い入れを語る場面も。 さらに塚田は「第3期はヴォーカルが2人いる(※ベースのグレン・ヒューズをカウント)のが音楽の幅を広げている」と、作品発売当時のディープ・パープルの音楽性を分析しつつ、「ディープ・パープルとレッド・ツェッペリン、どっちが偉いと思います?」と客席を巻き込む。当時の「ディープ・パープルvsレッド・ツェッペリン論争」について盛り上がったのち、「結論はスコーピオンズ!」とまたしても小ボケで会場の笑いを誘った。 キャッチーなつかみで盛り上げた高木に続くのは、ルーキー・埜咲ロクロウ。挙げたのはイタリアン・プログレの雄、アレアの初公式ライヴ・アルバム『アレアツィオーネ』(1975)。“どプログレ”な選盤だが、ジャケットを見ただけで得心顔の客たちもちらほらといるのは、さすが金属恵比須のファンたちである。 「イタリア語で(曲名を)言ってください」という塚田の煽りも鋭さを増す中、ロクロウは「ラ・メラ・ディ・オデッサ(オデッサのりんご)」と推し曲を発表し、曲を聴きながら「アレアにしてはキャッチーな曲が並び、デメトリオ・ストラトスがちゃんと歌や語りをやっている曲が前半に揃っている」と選盤の理由を真面目に説明する。「オデッサのりんご」では「実際にライヴ中にステージでリンゴを食べている」というエピソードも話し、その箇所を皆で聴きながら、自身も大学のバンドでコピーした際、リンゴを食べる役を買って出たことを明かしてくれた。 また、新生アレアの来日公演に行ったという塚田が「新アレアで演奏したときはりんご食べなくてクレームがでた」と、当時の客席からの様子を伝えるなど“プログレ生き字引”ぶりを発揮し、高木は「アレアはキーボードもドラムも70年代のヴィヴィッドな音を出している」と評価するなど、この日最もプログレ好きの宴会らしい時間が流れた。 3番手は、柔和なルックスと迫力のヴォーカルというギャップでいつもライヴを盛り上げているヴォーカルの稲益宏美。稲益の“推し盤”は、椎名林檎の『絶頂集』(2000)。3枚のシングルに、それぞれ異なる椎名林檎バンドの音源が収められた本作から稲益が聴かせたのは、“虐待グリコゲン”が2000年の〈実演ツアー 下剋上エクスタシー〉で披露した「やっつけ仕事」だ。聴きながら、選盤の理由を「ロクロウが生後6ヶ月ごろのライヴであり、世の中は林檎ブームで大学時代にコピーした思い出がある」と説明。稲益は当時、ギターを担当していたとのことで、お茶の水の楽器屋でグレコのレスポールジュニアを中古で買ったエピソードも披露してくれた。(※高木は現在グレコの公式アンバサダー) また、塚田が「亀田誠治のベースがいい」と褒めると、高木が「ベースが大きいのは革新的」と同意する。稲益は「金属恵比須の音作りと似ている。どんなアレンジを施しても施しても活きるような曲を作っている」と、現在の金属恵比須の立場からの再評価を話してくれた。なお、塚田は、当時天才が現れたと感じ入り、ファンクラブ「風雲ディストーション」の会員だったことを明かすなど、意外な一面の披露で客席をさらに盛り上げた。 4番手は、人間椅子・頭脳警察・GERARDなどなど、錚々たる経歴を持つドラムの後藤マスヒロの番に。数々のライヴ作品に参加してきた後藤は“手前みそ枠”として、自身が在籍したGERARDの『LIVE IN MARSEILLE - BATTLE TRIANGLE』(1998)をチョイス。かけたのは楽曲「Chaos」で、GERARDならではの複雑難解な楽曲をバックに「最も練習していた時期。この経験が今のプレイに生きている」と語った。 続いて、同アルバムより「Orpheus Part 2」を再生。あざといほどの変拍子が際立つ楽曲だが、高木は後藤マスヒロの真骨頂だという。当時は30代だったから叩けたというマスヒロだが、高木は「昔も今もマスヒロのプレイが変わらない」とバンドメンバーとして敬意を寄せているのが伺えた。 ちなみに、後藤マスヒロが本当にかけたかったのは頭脳警察『LIVE IN CAMP DRAKE』(1991)。だが、“プログレじゃない”と却下されたそうだ。すると、この日客席で観覧していた高木の御父上より「チャットGPTで日本のプログレは?と調べたら、金属恵比須は出てこなかったが、頭脳警察は出てきた」との指摘があり、この鶴の一声でこの後マスヒロは念願の頭脳警察も店内で聴けることとなったのだった。 ~第2部に続く~ 休憩をはさんで、〈最強ライヴ盤決定戦!〉第2部が開幕。いよいよ、不在だった鍵盤奏者に据える新メンバーがお披露目となる。前予想では、塚田円の就任も噂されたが、登場したのは、埜咲ロクロウよりもさらに若く、容姿端麗の女性、春木香珀(ハルキ コハク)だつた。幼少期よりバイオリンとピアノを学び、ストラヴィンスキーの初期作品を聴いてそのバーバリズムに強く惹かれ、プログレに傾倒したという才媛。埜咲ロクロウが“人事”として活躍し、バンドに引き合わせたらしい。新加入後、最初の仕事がライヴではなく、トークイベントとは、驚いたことだろう。 涼し気な才媛ルーキーに、すでに赤ら顔の高木が「こちらが厳しいファンの皆様です」と、同じく出来上がりつつあるファンたちを“逆お披露目”する場面もはさみつつ、早速春木も“推し盤”を発表する。 春木香珀が選んだのは、ブーレーズ指揮による『ストラヴィンスキー:春の祭典』(録音1969 / 1971年)。ずっとバロック~古典派を学んできた彼女の“脱皮“のきっかけとなった作品だ。『ストラヴィンスキー:春の祭典』は、キング・クリムゾン『太陽と戦慄』の元ネタとしても有名な作品であり、大学で民俗学/考古学を学ぶ傍ら、ストラヴィンスキーのスコア研究を続けてきたという。黛敏郎やマグマも好むそうで、芥川也寸志を敬愛する高木とのアカデミックな会話が続く。 思わぬ才媛の登場で、酒で弛緩した頭に刺激が与えられた。ここで満を持して登場したのは、本日の審査員長、塚田円。これまで、人の選盤にさんざんチャチャを入れ続けた塚田が選んだのは、20世紀ロック・ライヴ・アルバムの傑作中の傑作、『UFO ライヴ』(1979)である。その中の屈指の名演「ライツ・アウト」をかけると、「“真っ暗だよロンドン”の歌詞を開催地のシカゴにかえて歌って盛り上げたんですよね」との逸話もそこそこに、「もうこの曲いいです」とさっさと次の曲、後藤マスヒロのフェイバリットでもある「オンリー・ユー・キャン・ロック・ミー」を再生。マスヒロと塚田、同世代同士の熱い70年代ロック対談が始まった。 ここで、高木が、『邪神〈ライヴ〉覚醒』にからめて2024年の塚田円との共演を振り返る。「80年生まれヴィジュアル系世代の自分が、商業ロック以前を知っている塚田と共演できたことは貴重だった」とし「いつものスタジオ練習が面白くなった」と一緒にスタジオ入りした意義深さを語った。鍵盤奏者が不在だった2024年、ロック黄金時代を知る塚田円と現代音楽にも精通する大和田千弘という、プログレの共通点はありながらも、それぞれ強烈な個性のプレイヤーを招いたのは、新・鍵盤奏者を募るにあたり“何をやっても自由”だというメッセージを投げていたことも明かした。 実際『邪神〈ライヴ〉覚醒』は、ゲストプレイヤーに応じて、バンドとしては異色のセットリストが組まれ、アレンジも変えるなど、これまでの金属恵比須のライヴとはかなり様変わりした音が楽しめる。あらゆる音楽、世界を吸収し、金属恵比須の音として集約させていく過程が『邪神〈ライヴ〉覚醒』では垣間見えるのかもしれない。 最後に、〈最強ライヴ盤決定戦!〉の結果発表があった。すでに会場は酔っぱらいの集まりだったが、一応、どのライヴ盤が良かったのか挙手で決めることとなる。1位は、メンバーがかつて在籍していたという忖度が働いたのかGERARD『LIVE IN MARSEILLE - BATTLE TRIANGLE』。審査員長(塚田)が、力業で0票の『UFO ライヴ』を“最強ライヴ”盤にねじ込もうとするも、高木が『邪神〈ライヴ〉覚醒』も審査対象に交えると、満場一致で本作が“最強ライヴ”盤に落ち着き、プログレ好きの大忘年会は締めくくられたのだった。 写真: 木村篤志 文: 川上影森UNXUN