トヨタ大幅減益に佐藤社長が「意志ある踊り場」強調、チラつく豊田会長の影
● トヨタの営業利益は 日本企業初の5兆円超え トヨタ自動車は5月8日、2024年3月期(23年4月~24年3月)連結決算を発表した。佐藤恒治社長・CEOと宮崎洋一副社長・CFO、山本正裕経理本部長が出席し、質疑応答を含めて1時間50分をかけたリアル会見を行った。 トヨタの今回の決算の大きなポイントは、本業のもうけを示す営業利益が5兆3529億円と前々期比で96%増となり、日本企業初となる5兆円超えの最高益を果たしたことだ。売上高は45兆953億円で同21%増、純利益でも同2倍となる4兆9449億円と、5兆円に迫る水準だった。 コロナ禍・半導体不足を乗り越えて、北米や日本でハイブリッド車が好調に販売を伸ばした結果、グループ総販売台数は1109万台で5%増となった。また、値上げ効果に加えて円安による為替差益も好業績の追い風となった。値上げで1兆円、円安で6850億円、営業利益を押し上げた(トヨタは1円円安になると450億円の増益効果があるとされる)。 佐藤社長は「長年の商品と地域を軸にした経営が実を結び、一段と高い収益レベルを実現できた」と評価する一方で、この高い業績を生かして「モビリティカンパニーへの変革への『意志ある踊り場』として、10年後の働き方をつくる足場固めへ成長投資を加速させる」と、今期25年3月期の見通しとして総額2兆円もの「未来への投資」を行うことを明示した。 今回の決算発表で特に注目されたのが、営業利益で5兆円超えという“横綱相撲”を示したにもかかわらず、就任1年を経過した佐藤社長の表情が硬かったことだ。
それというのも、トヨタが最高益を計上する一方で、これまで連結子会社のダイハツ工業・商用車子会社の日野自動車やグループの豊田自動織機の不祥事が連鎖している。さらに、世界の自動車業界の変革により、脱炭素やSDV(ソフトウエア・デファインド・ビークル)といった領域で競争が激化していくことへの危機感を強めているからとみられる。 今回の決算会見では、世界的にEVシフトが減速・鈍化している中でトヨタのHEV戦略が優位に立っていることやトヨタのマルチパスウェイ(全方位)戦略の動向に質問が集中した。しかし、佐藤社長は「一切、変更はない。BEV・PHEV・HEV・エンジン車・水素など多様な選択肢に対応していく」と断言した。その上で「電動化はクルマのアーキテクチャーを変え、クルマづくりを変える。また、クルマの要素、形が変わる。クルマの存在を変えるチャンスだ」と強調し、EVへの大型投資を打ち出している。 さらに「SDVにおけるソフトウエア・AI活用・導入がモビリティ構造改革のカギを握る」として、SDV実現に向け攻勢をかけて米テスラや中国勢に対抗していく覚悟も示した。 一方で、世界最大の市場である中国で各社が苦戦している状況打開について、トヨタの営業も統括している宮崎副社長は「中国の価格競争は日に日に厳しくなって大変きつくなっている。BEVを中心に供給過多の動きに巻き込まれないよう、当面『しのぐ』ことが数年続くことになる」と述べた。政府主導のEV普及戦略により中国ではトヨタも厳しい状況にあるが、「しのぐ」という言葉がトヨタの中国戦略が苦境にあることを浮き彫りにした。