『密輸 1970』知力と潜水能力で悪党どもに挑め!連帯する海女たちの痛快犯罪活劇
どこにでもある、どこにもない港町で
1970年代半ば、韓国西岸の港町クンチョン。ジンスク(ヨム・ジョンア)をリーダーとする海女のチームは、近くの化学工場が垂れ流す排水のせいで、満足な漁ができなくなっていた。窮余の策として、密輸品を海底から引き揚げる闇仕事をブローカーから請け負うが、二度目の仕事の最中、税関の監視船が出現。混乱のなかでジンスクは船主である父と弟を事故で失い、無二の親友、チュンジャ(キム・ヘス)も行方不明となる。密輸行為の責任を負ったジンスクが刑務所に入っているあいだに、父の海運会社は使いっ走りのドリ(パク・ジョンミン)に乗っ取られ、クンチョンの町には、チュンジャが税関に密告したのだとの噂が流れる。 2年後、画面がスコープサイズへと広がり、町にチュンジャが戻ってくる。彼女はジンスクに儲け話を持ち掛ける。密輸王と悪名高いベトナム帰りのクォン軍曹(チョ・インソン)と手を組んで、大規模な密輸ビジネスを成功させようというのだ。海女仲間の生活を守るため、チュンジャへの不信感を押し殺して手を結ぶジンスク。ところが、最初協力していたクォン軍曹とドリの関係は次第に悪化、隠されていた事実も明らかになり、事業は航路から逸れはじめる。駆け引きと暴力、裏切りと偽り、よみがえる絆。陽光まばゆい海景を舞台に、クォン軍曹、ドリ、税関を相手取っての、女たちの大勝負が始まる――! 監督リュ・スンワンは、『モガディシュ 脱出までの14日間』(21)など、実話を題材にした映画をこれまでいくつか手掛けている。実際の事件を映画化したわけではない本作も、1970年代に韓国沿岸部で海洋密輸が盛んに行なわれていたという事実と、その手法とが着想元になっている。公害問題が背景にあるのも、言うまでもなく1970年代の時代性を感じさせる。 一方、クンチョンは架空の町だ。その名前は、韓国西岸の都市である仁川(インチョン)と群山(クンサン)を合わせたものと思われるが、町自体は必ずしもこの2都市の合成ではない。これは韓国のさまざまな港町の要素を取り入れて作られた、「いかにもありそうな、しかし実際にはどこにも存在しない」港町である。