HTC『VIVEトラッカーUltimate』でVR住民が大興奮するワケ 公式アンバサダーが徹底解説
ベースステーションのないスタンドアロンVRゴーグルでも高精度なフルトラができる『VIVEトラッカー (Ultimate)』(英語表記:『VIVE Ultimate Tracker』、以下『Ultimateトラッカー』)が11月29日にHTC社より発表・発売開始。ソーシャルVRの住人の間で大きな話題になり、フルトラ(フルボディトラッキング)用の3個セットがまたたく間に売り切れた。 【画像】半数以上が利用、3割が導入検討の「フルトラ」 「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」による利用動向(全体) 本稿では、HTC公式VIVEアンバサダー・バーチャル美少女ねむがその魅力をヘビーユーザー目線で徹底解説。「そもそもフルトラとは何なのか?」「どのあたりが“アルティメット”なのか?」「なぜVRユーザーが驚喜しているのか?」住人の声と併せて紹介する。 なお、ことをあらかじめお伝えしておくが、「HTC公式VIVEアンバサダー」とは、HTC公式に認定された一般ユーザーがユーザー目線でVIVEの魅力を自由に発信するプログラムであり、今回筆者はVIVE公式から一切の事前情報を受け取っていない。本稿は全て公開情報を元に執筆していることをご承知いただきたい。 ■そもそも「フルトラ」とは? まずは前段として、「フルトラ(フルボディトラッキング)」がどういったものなのかを解説しておこう。これはひらたくいえば、ユーザーの全身(フルボディ)の動きをセンサーなどを用いて追跡(トラッキング)する技術のこと。『VRChat』などのソーシャルVRにおいてはしばしば全身の動きとアバターとを連動させる技術をさす言葉として用いられ、略称として「フルトラ」の語が浸透している。 VR機材の構成において一般的なVRゴーグルと左右のコントローラーによる「3点トラッキング(頭と両腕)」。そこへ腰と左右の足にセンサーを装着した「6点トラッキング」以上の構成が「フルトラ」に分類される。 フルトラを利用するメリットとして一番に挙がるのは、アバターの可動域が増えることで表現力が高まる点だ。しかし、それにくわえてアバターとの一体感が高まることで、「自分自身の肉体」のように感じられ、VR体験の没入感を飛躍的に高める効果があるのではないかと筆者は感じている。 実際に、日常をVRの世界で過ごすソーシャルVR住人の間でも、フルトラは非常に人気がある。かわいい動きを目指す「kawaiiムーブ」、VR世界に入ったまま睡眠をとる「VR睡眠」、スポーツやダンスなど、様々な用途でフルトラが利用されている。 ■VRユーザーの半数以上がすでに利用、約3割が将来的な導入を検討する「フルトラ」 筆者とスイスの人類学者・ミラが実施した大規模公開アンケート調査『ソーシャルVRライフスタイル調査2023』では、ソーシャルVR住人のフルトラの利用動向に関しても調査している。 これによれば、2007名の回答者のうち半数以上がフルトラを利用しており、約3割が将来的な導入を検討と、フルトラの圧倒的な需要が伺えた。サービス別でみると、特に今回『Ultimateトラッカー』が公式対応を発表した『VRChat』や『バーチャルキャスト』はフルトラの利用率が特に高いことがわかる。 (出典:「ソーシャルVRライフスタイル調査2023」) ■11/29『VIVEトラッカー (Ultimate)』発表&発売開始 『Ultimateトラッカー』は、本体に搭載された2台の広角カメラによる「インサイドアウト方式(※1)」で「6DoF(※2)」の高精度トラッキングが可能な、VR用の新型トラッカーだ。 【※1「インサイドアウト方式」:本体に搭載されたカメラによる映像をトラッカー自身がリアルタイムに解析することで、自分の位置を逆算する方式のこと】 【※2「6DoF(シックスドフ)」:3次元空間における位置座標に3軸の回転角を加えた、6種類の自由度を持つ動きのこと】 価格は単体が31,000円(税込)、「フルトラ用」が3台セットが91,900円(税込)となっている。公式が「フルトラ用」のセットを用意しているのは、稼働時間が長めに設計されていることと併せて、明らかにソーシャルVR住人による日常用途を想定しており、非常に印象深い。 『VRChat』や『バーチャルキャスト』などのソーシャルVR、その他VRゲームにも公式対応を発表しており、利用シーンをイメージした公式PVも公開されている。 最大稼働時間は7時間と、かなりパワフルになっている点も見逃せない。 リリース時点で公式対応が発表されているデバイスはスタンドアローン型VRゴーグルである『VIVE XR Elite(対応済み)』『VIVE Focus 3(近日対応予定)』の2機種のみとなっているが、VIVE製品のグローバルヘッドであるシェーン・イー氏によると、「数週間以内にベータ版として追加アップデートをおこない、SteamVR経由であらゆるPCVRに対応予定」とのこと。正式対応が待ち遠しくなるところだ。なお、PCVRの場合はドングルをVRゴーグルではなく、PCに接続して無線通信で利用するようだ。 (参考:公式解説動画「The VIVE Ultimate Tracker, Precision In Every Move!」) なお、筆者が発売開始のニュースをXにて紹介したところ、リポスト数が1,000回を超えるなど、ユーザーの高い期待がうかがえた。またたくまに9万円のフルトラ用3台セットが売り切れてしまう事態を鑑みても、待ちわびていたユーザーが多かったようだ。 ■「インサイドアウト」方式のトラッカーがいよいよ一般ユーザーの手が届く範囲に 筆者も使っている従来型のVIVEトラッカーでは、部屋の天井の角などに「ベースステーション」というセンサーを取り付けることで、部屋のどこにいても正確にVIVEトラッカーの位置や回転を検出できる「ライトハウス」という規格が採用されている。 ライトハウスは精度や安定性が非常に高い反面、センサーが影に入ってしまうとトラッキングが外れてしまう欠点(いわゆる「トラッカーが飛ぶ」現象)があるのと、『Quest 2』を始めとするスタンドアローン型のVRゴーグルの場合、トラッカーだけでなくベースステーションも購入しないといけないため、導入コストが高いという問題があった。 そのため最近では、「Haritora」シリーズなど加速度センサーや地磁気センサーを採用した比較的低コストなフルトラ機器も複数登場していた。しかし、これらの機器は利用シーンによっては精度や安定性に難があるという意見もあった。 そこで、新型の『Ultimateトラッカー』では「インサイドアウト方式」のトラッキングを採用することで、外部センサーを必要とせずに単独で高い精度と安定性を実現している。 この方式の実現に当たって課題だと言われていたのは、カメラに加えて、位置計算を行う頭脳に当たる演算装置をトラッカーに内蔵する必要があり、どうしてもコストが跳ね上がってしまうという点。いうなれば、トラッカー一つひとつが自分自身の位置計測をするための小さなパソコン程度の性能を有する必要があったのだ。だからこそ、今回インサイドアウト方式のトラッカーが一般ユーザーにも手に届く価格で実現できたのは画期的なことなのだ。 ■高まるユーザーの期待 気になる精度や安定性については今後に注目 筆者のツイートには多数の引用コメントが寄せられ、「ベースステーションなしで高精度で安定したフルトラができるのは嬉しい」「激しい動きでもトラッカーが飛ばなくなるなら嬉しい」など、製品に対する期待の声があがっていた。 他方で、値段については、「(ライトハウスに比べれば)この価格で高精度フルトラができるなら安い」「(3台揃えないといけないことを考えると)さすがに高い」など、賛否もあるようだ。 精度については「実際に(ライトハウスと比べて)どれくらいの精度や安定性が出るのか気になる」という声もあり、今後のアナウンスに注目したいところだ。精度や安定性については、筆者も入手次第レポートしようと考えている。高性能なフルトラが身近になることにより、VRの世界がますます広がっていくと考えると夢が膨らむ。手元に届くのを楽しみにしたい。
文=バーチャル美少女ねむ