3Dプリンターでクルマを作る「ローカル・モーターズ」が事業を停止! 「アリ」なアイディアだったのになぜ失敗したのか?
斬新なアイディアで多くの注目を集めていたローカル・モーターズ
アメリカのローカル・モーターズが2022年初め、事業を停止してしまった。同社は、3Dプリンターでクルマを作ってしまうことなどが、日本を含めて世界で大きな話題となったベンチャーだった。 【画像】3DプリンターとAIを駆使してデザイン! 最高速400km/hを超えのハイパーカーツィンガー21C!!(27枚) 筆者は2010年代に、ITや家電の世界最大級見本市「コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES)」や、北米国際自動車ショー(通称デトロイトショー)でローカル・モーターズの各種プレゼンテーションを直接聞き、同社の最高経営責任者(CEO)や経営幹部、そして若手エンジニアたちと意見交換をしてきた。 また、米アリゾナ州内の同本社にも出向き、新しい事業開発の現場を取材してきたが、事業停止に対してはとても残念である。 同社の基本的な方針は、世界各地から新しいアイディアを自由に持ち寄り、その後もオンライン上で議論を進め、シミュレーションを重視しながら実車に落とし込むという流れだった。まさに、コロナ禍になって世界で一気に進んだ、オンライン会議による事業の進め方をいち早く取り入れようとしたのだ。 見方を変えれば、オンライン会議の急激な発達によって、ローカル・モーターズの事業の独自性は薄れてしまったといえるかもしれない。 また、取材当時に感じていたのは、開発に多くのエンジニアなどが絡むのだが、事業の出口として収益の分配の仕方が不明確という点があった。 ベンチャーなので、最初はそうした事業上の不安定なところがあっても、開発事例が増えて、そして販売実績が上がり、投資家からの興味もさらに高まれば、収益構造が最適化されていくとの期待を持っていたが、結局、エンジニアの理想的な開発体制による事業化に挫折してしまったのかもしれない。 また、ローカル・モーターズという企業名に示されているように、同社の理想は車両の製造は各地(ローカル)の販売拠点で行うことで、製造におけるコストを徹底して削減することだった。各地に小規模な生産拠点があり、車体やモーターなどを販売店に供給し、販売店にボディや装飾品などを3Dプリンターで製造して組み付けるという手法も考案していた。 だが、自動車産業界の基本構造である、製造者と販売者が分離している「製販分離」という大きなハードルを壊すことができなかったともいえるだろう。 理論上、ローカル・モーターズのような、オンラインでほとんどの開発を完結させたり、また販売店で部品を製造するというアイディアは、あり得る話だ。 今後、ローカル・モータースが事業を再開するか、または第二のローカル・モーターズのような事業が世界のどこかで立ち上がるのか? 次世代のクルマづくりとクルマの売り方が近い将来、ぜひ日本でも実現することを期待したい。
桃田健史