「コロナ禍デビューの約200組がほぼ全滅」 元『日プ』/『Re:Born』総指揮者、“K-POPアーティストの格差”に危機感
アルバイトをしながらアイドル活動、事務所の社長も副職……韓国の中小事務所の現実
ーーそして番組ではK-POPの“ウラ側”にもフォーカスを当てるとのことですが、あえてウラ側に着目した理由を教えてください。 ジャン・ヒョクジン:K-POPアイドルは完成型で、日本のアイドルは成長していく過程を楽しむ進化型だという見方がありますよね。ある意味、それはすごく正しいと思っていて、特に大手事務所のグループの場合、最初からかっこいいビジュアルやパフォーマンスなど、完璧な姿を見せようとします。一方で、我々の意図は一度デビューしてうまくいかなかったグループに再度チャンスを与えることなので、そういう完璧性を求めるのは、番組趣旨とは合わないと感じているんです。もうひとつ、ファンがアーティストを好きになる過程では、ルックスやスター性だけではなく、性格だったり考え方だったり、内面に惹かれることも大きいと思うんです。『Re:Born』では、韓国のシーンではあまり見せたがらないそのウラの顔を積極的に出そうと、練っているところです。例えば出演チームの中には、本当に貧しくてアルバイトで生計を立てながら隙を見て練習したり、事務所の社長が夜に運転のアルバイトをしながら彼らを養うというケースもあるんです。保証されていない目標に向けて、ひたすら頑張って奮闘している姿が、人々を感動させ、応援していこうという気持ちを生むのではと考えています。もちろんそれはプライバシーに立ち入ることでもあるので、各事務所とよく相談をして、なるべく失礼や誤解のないようしっかり注意を払ってお届けする予定です。 ーーそれはこれまで見たことのない“ウラ側”なので楽しみです。また今回K-POPという括りではありますが、お話を伺ったようにバイトをしながらアイドルやっていたり、そういう部分を見せていくのは、ある意味日本の地下アイドルを思わせる、日本的なマインドをとても感じるのですが、このような番組内容になったのは、ジャンさん自身が日本での生活が長いことも影響を与えていますか? ジャン・ヒョクジン:あるかもしれないですね。韓国の音楽ジャンルはとても偏っていて、(広く知名度を獲得しているのは)ほぼアイドルしかいない。それが日本の場合、市場規模が大きく、音楽ジャンルも広くて、アイドル好きな人もいればロックが好きな人もいて、音楽を聴く世代の広さを含めても世界最大級です。そんな土壌であれば、韓国の大衆には受け入れられなかった子たちでも、日本のファンには彼らが持っている魅力を見出してもらえるんじゃないかと思っています。私自身が日本の音楽シーンに興味を持っているからこそ、着目した企画かもしれません。 ーー日本市場の大きさだけではなく、日本リスナーの感度にも期待を寄せているということですね。一方でデビュー経験があるとはいえ、日本で認知度の低いグループを集めた番組となると、企画を通す際に苦労もあったのではないでしょうか。 ジャン・ヒョクジン:この番組を企画したとき、日本のK-POPファンは完成型アイドルに慣れているから、人間的な魅力のあるアーティストでないと成立しないのではないかという話が出ました。とはいえ、実力がないまま人間性だけで成功してほしいとは思っていません。大前提として高い実力は保証したうえで、各々の内面もより深く見せたい。そこに賛同してもらえるアーティストたちを集めることは大変でした。そのため出演チームは、デビューから間もない子もいれば、活動歴の長い子もいて、バラエティに富んでいます。 ■“フォーマットのない番組”を支える豪華出演者たち ーーMCにチャン・グンソクさんを起用していらっしゃいますが、その理由を教えてください。またジャンさんからご覧になって、チャンさんの日本での支持の広がりや人気獲得の過程は、ある種モデルケースのような感覚がありますか? ジャン・ヒョクジン:視聴者から見ても納得ができる方に務めてもらわないといけないと思ったときに、チャン・グンソクさんの名前が挙がりました。韓国の俳優さんが、日本でここまでの地位に至るには、見えないところで本当に考えられないぐらいの努力を重ねてこられたと思うんです。その過程が、僕らが『Re:Born』に出演するメンバーに求めているものと完全に一致すると感じました。ご本人も今回の企画にとても賛同してくださっていて、これまで頑張ってきた経験やノウハウを示したいと、快く承諾してくださいました。今回はMCという立場ですが、きっと後輩たちに良い影響を与えてくれるだろうと期待しています。彼自身にとっても、日本の番組でのMCは初めてですが、先輩アーティストとして本気のアドバイスをする場面は、かなりの見どころだと思います。彼は本当に賢く、人に対する接し方も非常にうまく丁寧で、誰からも愛されるキャラクターだなと感じました。 ーーこれまでのオーディション番組では、キーマンとなる人の存在感が大きく注目されたケースが多々ありましたが、『Re:Born』でチャン・グンソクさんがキーマンとして期待できますね。ジャンさんはサバイバルオーディション番組『PRODUCE 101 JAPAN SEASON2』のチーフプロデューサーを務めておられましたが、同番組に関わるきっかけはなんでしたか。 ジャン・ヒョクジン:番組をプロデュースする前は、主に戦略担当で企画を組む側の人間だったのですが、今、日本に限らず、媒体が多様化されて、地上波がいちばん強かった時代から変わりつつありますよね。なおかつ、デジタル含めたメディアが台頭することで主導権が変わってきました。僕はチャンネルを運営していた人間ですが、ネクストビジネスではIP(知的財産)を持たないといけないと考えたとき、当時韓国のCJ ENMでやっていた『PRODUCE 101』という番組が、オーディションを通じてアーティストIPを獲得し、そのアーティストが各地域で活躍するという非常に優れたビジネスモデルだと思ったので、「日本でもやらせてください」と説得をして始めるに至りました。 ーージャンさんの働きかけで『PRODUCE 101 JAPAN』が始まったのですね。同番組を通じて感じた苦労した点や成功点、その経験が『Re:Born』に活かされている部分はありますか? ジャン・ヒョクジン:『PRODUCE 101 JAPAN』は、シリーズを成功させた番組フォーマットがあったので、そのぶん守るべき制限もありました。日本で番組制作をする上で大きな試行錯誤があったかというとそうではなく、韓国での経験があったからこそ成立した面が大きいですね。ただ、今回の『Re:Born』は初めての企画なので、我々が想定できないさまざまなことが起きるのだろうと思っています。その都度どう対応していくかを今から考えているところです。フォーマットのない中でのスタートといえども、『SHOW ME THE MONEY』のホン・インテクプロデューサーや、ILLITを輩出した『R U Next?』のクリエイター陣など、オーディション番組の経験者たちが集まっているから心強いです。出演者たちも色々な方向性を試したあとだと思うので、当然ながら事務所と見せ方をしっかり議論しないといけないでしょうね。それぞれのメンバーが持っている魅力と能力を見た上で、コンセプト付けやストーリーテリングをしていければと思います。 ーーリアルタイムで楽しめるオーディション番組は、視聴者と番組の距離がぐっと近い気がしています。リアルタイムでSNSにコメントする視聴者もたくさんいると思いますが、そういったコメントはご覧になっていますか? ジャン・ヒョクジン:もちろん目を通しています。これまでの経験として、SNSを通じてかなりコミュニケーションを取れていたと実感しています。特にK-POPが好きな方々は、ストレートなコミュニケーションよりも伏線を入れるほうが楽しんでくれるようで、怖いほどに非常に細かく見ているんですよ(笑)。我々がちょっとした手掛かりを出すだけで次を予想されてしまったり、「まさかこれはわからないよね」と思って投げれば、すぐに返事が返ってくるというコミュニケーションは、我々もすごくやり甲斐があって。この経験は『Re:Born』でも活かされると思います。 ーー最後に、この番組を通して視聴者へ伝えたいメッセージはありますか。 ジャン・ヒョクジン:見応えのある番組を作っていきますので、ぜひ観ていただきたいということと、各出演メンバーのアーティストとしての魅力だけではなく、それぞれが持っている“人間力”もしっかり見せるので、それらを総合して、本当の推しを見つけてほしいです。
筧真帆