執筆中に頻発した霊障「カジョーラー」事故物件に10年以上住み続ける芸人松原タニシが紡ぎ上げた「恐い怪談」
「事故物件住みます芸人」として知られ、怪談イベントにも引っ張りだこの松原タニシさんが、待望の新著を上梓した。 【画像】地下の通称「開かずの扉」の向こう側。23区内とは思えない闇と静けさが広がっていた。 その名も『恐い怪談』(二見書房)。これまで多くの怪異に触れ、語ってきたタニシさんが、正面から「怪談」に取り組んだ意欲作だが、なぜ今改めて「怪談」なのか? 今作の執筆に至る経緯から聞いてみた。
真っ向から「恐い怪談」に取り組んだ
――新著のタイトル=テーマを『恐い怪談』とした意図を聞かせてもらえますか。「恐い」と「怪談」、2つの言葉の重複がそこはかとなく不気味です。 2012年からテレビ番組の企画で事故物件に住み始めて、その体験や、人から聞いた不思議な話をそのまま書き、話してきました。でも、真っ向からの怪談って、あまりしてこなかったんじゃないかなと思って。結果的に恐いと思ってもらえることはありましたが、自分自身では、そこまで強く「恐さ」を意識していなかったんですよね。 ただ、「恐い」というのは主観なので、その人のバックボーンや生き方によって何を恐いと思うかは違ってくるし、子どものころにすごく恐かったものが、大人になると全然恐くなくなったり、逆に大人になってから気づく恐さもある。 自分でも気付かなかった思い込みや妄想、他者の誘導などを排除して、それでも成立する恐い怪談ってどんな話なのか、興味があるんです。そういう意味で『恐い怪談』は、自分にとって何が「恐い」「怪談」なのかを探す旅路のような本になりました。 そもそも最初は、旅がメインの本を書こうと思っていたんですよ。旅行記の途中にちょこちょこ恐い話が入ってくるような本をイメージしていたんですが、それを“思考の旅”みたいな感じにできたら面白いかもしれないと思って。 1話から100話まで、いろいろなタイプの“恐さ”を巡って帰って来る旅。普通の旅のように、元の場所に帰ってこられるかどうかはわかりませんが。 ――帰る場所が事故物件という人もいますしね。本には全100話の実話怪談が収録されていますが、百物語を意識したのでしょうか。 百物語(※すべて語り終えると怪異が起こるといわれる)のフォーマットといえばそうですが、100という数字はある程度まとまった数というだけのことで、深い意味はありません。読み方や読後のことはすべて読者に委ねたかったので、あえて投げっぱなしにしています。話のチョイスや構成は、もちろん意図したものですが、気にせず読んで欲しいです。