認知症になりたくなければ会話で「聴く6」:「話す4」を目指そう
本当に聴けていれば脳波が動く
聴く力に関する一般的な研究手法に、聴かせる音源に関係ない音を混ぜるという方法が知られています。たとえば、有名な昔話の朗読を聞いてもらい、脳波を調べるのですが、昔話の中にそのお話ではありえないことがらをしのばせておきます。そのありえない箇所を聴いたとき、おかしいと感じたときに出る脳波が出れば、その人はきちんと聴いているということになります。「ふむふむ」と聴いているそぶりを見せていても、脳波に変化が見られなかったら、その人は聴いていないということがあぶり出せます。 ただ、このように実験で脳波を計測しなくても、しっかり聴けているかどうかを調べることはできます。相手がおそらく聴いたことがないと思われる単語や知らないであろう事象を話の中に混ぜておき、相手が「ふむふむ」というそぶりを見せるだけで何も反応を示さなかった場合、あまり聴いていないか、聴いているけれど質問を躊躇しているかのどちらかだろうと推測できます。 こちらが話し手で「聴いていないな」と感じたときは、相手が質問しやすい空気を作って促したり、本当は聴き取ってほしかった言葉や事象についての補足をしたりすれば、しっかり聴いてもらうことができます。そんなふうに会話の相手が気遣ってくれているから、自分も「聴けている」可能性があるかもしれないことを知っておくと、聴き方が変わるでしょう。
特に家族との日常会話でありがちなのが、どちらかが話しかけても、もう一方は話を聴くモードになっておらず、聴いていないというシチュエーションです。特に家事や食事など、会話以外のことをしながら会話をするときに、話す側は相手が聴けているか確かめながら話し、聴く側も、いったん手を止めるなどして聴く構えを作る工夫が有効です。
聴く姿勢=吸収する姿勢
脳が長持ちする会話を支援する共想法を通して高齢の方と接していると、人の話をよく聴ける方には、何かを吸収しようという姿勢が強いように感じます。仕事の話だから重要で、日常会話だから神経を使わなくても良いということではなく、場面によらずどんなときでも、人との交流やその場の空気を楽しみ、新しい考えを自分に取り込んでいくことが、人として成長し続けていくことにつながるのだと思います。 聴く力を養うには、「聴く6」:「話す4」の割合を意識してみることをおすすめします。 誰かと話しているとき、頭の中で考えていることの多くは「次は何を話そう」であることがほとんどです。相手の話に反応する形で、自分が話せることを探しているのです。 自分が意識的に「聴こう」と思わなければ、脳は聴こうとしません。脳が「これは見ない」と決めたら、その情報は全く入ってこないようにできているのですから、聴くか聴かないかも同じです。物理的に音が耳に届いていても、聴けてはいないのです。 どのようにして6:4にするかですが、そこで大活躍するのが質問です。頭の中で次に自分が話すことを考える割合を、相手への質問を練る割合に変えていくことで、「聴く」ことに集中できるようになります。次に自分が話すターンが来たときも、自分が投げかけた質問によって、さらに話を「聴ける」という好循環が生まれます。
大武美保子