ブームだけど…… あらためて問う「ふるさと納税」の本質って何?
ふるさと納税は納税か寄付か?
ふるさと納税というのは本来、都市と地方の格差是正という目的で始まった制度です。都会に住む人などが自分の出身地や自分の好きな地方を支援したいという目的で寄付する。そしてその寄付のほとんどが税金から控除されるという制度です。したがって、「納税」と名前はついているものの実態は「寄付」と言ってもいいでしょう。日本の税制には「寄付金控除」という項目があります。自分が寄付をすることによって税金が軽減されるしくみです。寄付にはメリットが二つあります。 一つは自分で税金の使い途を実質的に指定できるということです。例えば震災で被害を受けたところへ寄付をすると、その何割かは税金が戻ってきます。でも被災地援助には自分が寄付した金額がまるまる使われているわけですから、税金が戻ってきた分というのは国がその分を支払ったのと同じということになります。つまり普通であれば自分の払った税金が何に使われているかわからないのに寄付をすることによって、いわば国に税金の使い途を指定するのと同じことになるわけです。もちろん確定申告しないと税金は戻ってきません。実はこれが二つ目のメリットです。つまり寄付⇒申告⇒税の還付という流れを体験することで税のしくみを知ることができるということです。 ふるさと納税ではこれらの二つのメリットに加えて寄付をした自治体によってはお礼の品物で名産品や特産の農水産物などがもらえるという楽しみがあります。ふるさと納税の場合は寄付する金額と自分の収入にもよりますが、実質的に自分が負担する金額は多くの場合2,000円ですから、いわばこうした各地のおいしいお米や立派な魚など、美味しいものがたった2,000円で手に入るということになります。これが最近、ふるさと納税が急速に人気の出てきている大きな理由なのです。
特産品の魅力に心奪われ、忘れられてしまった最大のメリットとは?
ところが最近ではどうやらこのお礼の品物だけが注目されるようになり、雑誌の「ふるさと納税」特集でも多くは「どこの自治体はどんなプレゼントが送られてくる」といったものだけに関心が集まりがちです。行動経済学では、人の思考や好みが状況や文脈によって左右されることを「選好の逆転」と言います。本来であれば、自分の応援したい地域があるからふるさと納税をするはずであるにも関わらず、こうしたプレゼントの良し悪しで納税先を決めてしまうというのは典型的な「選好の逆転」と言ってもいいでしょう。 もちろんプレゼントに惹かれて納税(=寄付)をするのが悪いというわけではありませんが、本来の目的や狙いからは大きく逸脱しています。実際にそうやってうまく寄付金を集めた自治体とアピールの下手なところでは集まるお金に大きな差が生じているということも言われています。自治体の間でのプレゼント合戦になりつつあるということもあり、本来のふるさと納税の目的とは合わなくなってきている部分も生じてきています。これが将来、大きな問題化する可能性もないとは言えません。 さらに言えば、2014年から「ふるさと納税ワンストップ特例制度」というのができてサラリーマンの場合であれば多くの人は確定申告が不要になりました。これによってふるさと納税を利用する人は更に増えたようです。これは一見便利なように思えますが、「申告することによって税のしくみを理解することができる」という、寄付をすることによる本来の大きなメリットがなくなってしまいます。いずれも特産品プレゼントというメリットが前面に出過ぎたことによる「選好の逆転」現象であり、現在のふるさと納税は必ずしも良いことばかりというわけではないと思います。 特産品をもらうのはうれしいのですが、あくまでもそれはプラスアルファの楽しみとし、税のしくみを理解して、それが有効に使われるように自分で考えるということが最も大切なことでしょうね。 (経済コラムニスト・大江英樹)