【今月見るべき新作映画】韓国の鬼才ホン・サンス監督が描く、悩める男のタイムループ『WALK UP』
発見、感動、思索……知的好奇心を刺激する、映画好きな大人のための今月の新作を厳選! 【写真】『WALK UP』主演クォン・へヒョが来日
韓国の鬼才ホン・サンス監督が想像力を掻き立てる、悩める男のタイムループ『WALK UP』
ミニマムなスタッフや常連俳優たちとハイペースで監督作を生み出し続ける韓国の鬼才、ホン・サンス。その長編第28作目となるのは、ホン・サンス映画の顔であるクォン・へヒョや、『あなたの顔の前に』のイ・ヘヨンらが共演の『WALK UP』。映画監督のビョンス(クォン・へヒョ)が娘ジョンスを伴って、インテリア・デザイナーのヘオクが所有するアパートを訪ねるところから始まる4章立ての物語だ。1階のレストランでの食事後、ヘオクは親子に4階建ての各フロアを案内する。別居中の妻と暮らしている娘・ジョンスからは「臆病者でまるで子ども」と低評価なビョンスだが、ヘオクは有名監督の彼を褒めちぎり、「近いうちに部屋が空くから、家賃半額でいいので越してきて」と誘う。
時間が少し経過したらしい第2章では、ビョンスが久しぶりにヘオクを訪ねる。1階のレストランのシェフ、ソニが料理教室を主催する2階の部屋で、彼女を交えてワインを酌み交わす。ビョンスの大ファンだというソニは、「実物も素敵です!」と瞳を輝かせる。3階で繰り広げられる次章では、ビョンスとソニは同棲中だが、二人の間には早くもすきま風が吹いている。レストラン経営が苦しいソニは、映画が撮れないビョンスの戯言に付き合っていられないという様子。郵便を届けに来るヘオクの態度も冷ややかだ。最終章のビョンスは4階で休業生活を続けているが、小金持ちの新恋人が肉や焼酎持参でやってくる毎日。大家のヘオクはますます辛辣になった。 エピローグでは、時は第1章に巻き戻る。果たしてこれは階段を“walk up”したら?と思いめぐらせたジョンスの妄想なのか。現実と理想、自信とその喪失、憧れ、心変わり、宗教、病……。韓国のエリック・ロメールと異名を取るホン・サンスの教訓話的一編は、美しいモノクロームの中、リアルな会話と沈黙の妙が際立つ。 『WALK UP』 6月28日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、 Strangerほか全国順次公開 BY REIKO KUBO