初告白!井上尚弥とネリ…「怪物」と「悪童」と拳を交わした元世界王者が語った衝撃の70秒KOの舞台裏
日本ボクシング史上最大のビッグマッチのゴングが鳴る。世紀の一戦の予測を聞くために、井上を取材し続けてきた記者はマイアミへと飛んだ。井上、ネリ双方と拳を交わした元王者・パヤノの意外な答えとは。 【全3回の第1回】 【衝撃】メイウェザーをとりまく美女たちがグラマラス過ぎて…
一瞬にして顔つきが変わった
ヤシの木が温かい風に揺られ、白い砂浜には穏やかな波が打ち寄せてくる。米フロリダ州マイアミ。アメリカで屈指のリゾート地として知られるマイアミビーチから車で15分ほどの場所に、巨大なガレージが並んでいる。その一つをボクシングジムに改造しているところがあった。 「日本からよく来てくれたね。長旅で大変だったろ?」 元WBA世界バンタム級スーパー王者のファンカルロス・パヤノ(39歳、ドミニカ共和国)は柔らかな表情で出迎えてくれた。彼は日本からこの地まで20時間近くかかることを知っている。5年半前、そのフライトを経験したからだ。 私が偉大な元世界王者に会いに来た理由は二つある。一つは井上尚弥(31歳、大橋ジム)の強さを世界に知らしめた「あの70秒」を紐解くこと。そして、もう一つは井上が控えている試合の展望を聞くためだ。 引退こそしていないが、最後の試合から2年半以上経つパヤノは遠方からの来客を喜び、ジムでは長時間のインタビューに応じてくれた。 「日本で盛り上がっているビッグマッチの予想も聞きたいのですが」 そう問い掛けると、パヤノは不思議そうな顔で首をかしげた。 「ビッグマッチ……」 試合の説明をした途端、それまで温和だったパヤノの顔つきが一瞬にして変わっていった―。
このスポーツで最も重要なこと
ゴールデンウィーク最終日となる5月6日、日本ボクシング史上最大のイベントが行われる。マイク・タイソン以来34年ぶりの東京ドームでの世界タイトルマッチ開催。メインイベントは、スーパーバンタム級世界4団体統一王者の井上尚弥対挑戦者ルイス・ネリ(29歳、メキシコ)の一戦だ。 バンタム級に続き、史上2人目となる2階級で4団体王座統一を果たした井上は、いまや世界中から注目されるボクサーになった。26戦全勝23KO。圧倒的なパワーとスピードで相手を倒す姿は「モンスター」の異名にふさわしい。 一方のネリは'17年に日本屈指のボクサー・山中慎介との世界タイトルマッチで4回TKO勝利を収め、王座を獲得した。しかし、ドーピング検査で禁止薬物に陽性反応を示し、翌年行われた山中との再戦では前日計量で体重超過。王座剥奪となったが、試合ではまたも山中をTKOした。トラブルメーカーはボクシングファンから「悪童」と呼ばれ、嫌悪される。 だが、実力は折り紙付き。35勝27KO1敗の戦績を誇り、振り回すような左右の強打で世界2階級を制した。 井上―ネリ戦は拳一つで熱狂を生む「ヒーロー」と、憎たらしいけど強い「悪役」の構図だ。ここに興行としての妙味がある。「ネリを成敗してほしい」「いや、あの山中戦の悪夢がよぎる」。ファンの間で様々な思いと予想が交錯し、ヒートアップしている。 パヤノは'18年10月に井上と、翌'19年7月にはネリと対戦した。リング上で両者を体感した男に純粋な試合予想を聞いてみたかった。 ドミニカ共和国の中央に位置するラ・ベガ出身のパヤノは8人兄弟。貧しい家庭に育ち、満足に食事をとれなかった。ボクシング人生は6歳から始まった。しかし、母からは「十分に栄養をとれないのに、ボクシングなんて…」と反対された。家にはトレーニングできるような靴はなく、隣の家から借りて練習に励んだ。世界王者になって、家族が貧しさから脱却することだけを夢見ていた。 だが、時が経つにつれ気づく。このスポーツで最も重要なことは規律だということに。 「節制しながら毎日練習で追い込む。同じことを繰り返すことがいかに大変か。ラテン系の選手の大部分がそれをできない。規律を守ることとハングリーであること、パッション(情熱)を持ち続けること、そして謙虚であることが重要なんだ」 16歳で初めて国を背負い、アマチュアのトップ選手として500戦近く闘った。'04年アテネ、'08年北京と五輪には2度出場した。 プロに転向後は妻と子供2人を故郷に残し、米マイアミに移住。ジムの練習場に隣接する合宿所に住み込んだ。そこはベッドと冷蔵庫だけが置かれ、窓もない2畳ほどの部屋だった。自らを律し、ボクシングに打ち込むための環境だ。大きな犠牲を払い、一心不乱に練習に明け暮れた。
【関連記事】
- 【つづきを読む】「あばらが折れていたんだ…」井上尚弥に衝撃の70秒TKOされた元世界王者が明かす、悪童・ネリとの一戦の舞台裏
- 【もっと読む】「ネリはノーチャンス。2ラウンドまでに試合は終わる」井上尚弥と激戦を繰り広げた元世界王者が予測する井上・ネリ戦「衝撃の結末」
- 一家の「晴れ舞台」が開始30秒で地獄に…生涯初のダウンを喫した絶対王者が告白する「井上尚弥のヤバすぎるパンチ」の軌道
- 「もう失明しますよ。ボクシングは辞めてください」井上尚弥に敗れたボクサー・佐野友樹が医者から突き付けられた「壮絶な最後通告」
- 右目が完全に見えなくなって…井上尚弥に初めて挑んだ日本人ボクサーが明かす「怪物の想像を絶する強さの正体」