移民が増えればインフレは収まる?FRB利下げと移民の「深い関係」
● FRBの政策運営にも影響及ぼす 移民問題はインフレ収束の重要な鍵? いま、世界中の関心がFRB(連邦準備制度理事会)の利下げスケジュールに集まっている。アメリカの政策金利は、インフレ退治のために2022年から急速に引き上げられた。インフレ率が鈍化するなかで、FRBが景気を失速させないようにいつ利下げに転じるかが鍵だが、早すぎるとインフレを再燃させてしまう危険があるので、タイミングが難しい。 アメリカ労働省が4月5日に発表した3月の雇用統計によると、非農業部門就業者数の前月比増加は約30万人と、市場の予想を上回った。就業者数増加は3カ月平均で約28万人。これは2010~19年平均の18万人を大きく上回る。 また10日に公表された3月の消費者物価指数も市場の予想を上回る前年同月比3.5%の伸びとなり、こうした雇用や物価の状況がFRBの利下げが後ずれする見方につながっている。 その一方で、利下げのタイミングにアメリカへの移民急増が影響を与えるとも言われる。 「移民が増えればインフレが収まる」というのだが、移民と利下げは、一見したところ何も関係がないように思われる。いわば「風が吹けば桶屋が儲かる」という類いの話のようにも聞こえる。 しかし、これは経済のメカニズムに直接、かかわることであり、移民問題は経済や金融政策の重要なカギになる。
今回のアメリカのインフレは、2021年、コロナ禍からの回復に伴って経済活動が急回復し労働供給が追い付かなかったために賃金が上がり、それがインフレをもたらした。だから、インフレ抑制のために重要なのは労働供給を増やすことだ。 移民が増えれば、労働の供給が増える。だからインフレ退治に役立つ。利下げをしても、それがインフレを加速することにはならないということになる。 ● 不法移民問題は大統領選の最大の争点 急増で混乱、国境の壁建設“再開” 移民の急増は、いまアメリカ社会を揺るがしている大問題だ。 メキシコとの国境からの不法移民は、以前から問題だった。トランプ前大統領は、これを阻止するため、在任中に国境に壁を建設した。 ところが、バイデン大統領は就任した初日に壁建設の中止を決定した。すると、不法移民が急増した。中南米やアフリカ諸国から、あるいは中国からも地球を1周して中南米に入国し、熱帯のジャングルを歩いてメキシコまでたどり着くという、移民の奔流が発生したのだ。 中南米やアフリカ諸国では、この数年間のインフレによって、生活困窮者が激増した。中国でも経済の落ち込みで生活が困難になった人が続出している。こうした人々は、アメリカに行けば何とかなると期待してアメリカに押し寄せているのだ。 急増した不法移民は、ニューヨーク市などで大混乱を引き起こしている。当面のシェルターとして市内の老舗ホテルが開放されたが、収容しきれない人々が路上に溢れ、さまざまな問題を引き起こしている。地下鉄には危なくて乗れなくなった。ニューヨークは1980年代に深刻な治安危機に陥ったことがあるが、その当時のような事態になってしまったと言われる。 この問題は、今や11月の大統領選の最大の争点になった。バイデン大統領もこの状況を無視することができず、23年10月に壁の建設再開という決定に追い込まれた。 これに対しトランプ氏は、「私の政策が正しいことが証明された。バイデンはそれを認めて謝罪すべきだ」などと述べている。 トランプ氏だけでなく多くの人が、これはバイデン政権の失政だと考えている。移民問題は、大統領選でトランプ氏への強い追い風になり、バイデン氏は苦しい立場に追い込まれているとの見方が強い。