三菱 ランサー1600GSR(昭和48/1973年8月発売・A73型) 【昭和の名車・完全版ダイジェスト084】
世界のラリーで三菱の名を知らしめる!ほど良いパワーと足の良さが大きな武器に
この連載では、昭和30年~55年(1955年~1980年)までに発売され、名車と呼ばれるクルマたちを詳細に紹介しよう。その第84回目は、国際ラリーでの活躍でその名を高めた、三菱 ランサー1600GSRの登場だ。(現在販売中のMOOK「昭和の名車・完全版Volume.1」より) 【写真はこちら】伸びやかなスタイルに見えるが、現代のレベルで言うとかなりコンパクト。このボディが世界のラリーフィールドを駆け抜けて注目を浴びた。(全7枚)
ランサーのデビューは昭和48(1973)年1月のことだ。当初はファミリーユースを意識したモデルばかり。ボディタイプは4ドアセダンと2ドアセダンでエンジンは1200cc、1400cc、1600ccというラインナップだった。 そして同年の8月に2ドアセダンにホットバージョンの1600GSRが追加されている。スタイリングはロングノーズ & ショートデッキのエアロノーズラインを基調に、直線と曲線を織り混ぜた個性的なものだ。 リアも縦長のコンビネーションランプを組み込み、テールエンドを大胆にカットするなど、かなり目を引くデザインだった。コンパクトでスマートなボディはいかにもモータースポーツを意識したもののように見えた。 ボディはモノコック構造だ。室内の安全性を高めるため、ストレートで断面の大きい縦フレーム、衝突時にステアリングギアボックス取付部の後退を防ぎ乗員を保護するトルクボックス、強力なフロントデッキの強化構造を採用したのが特徴だ。 その他、1600GSRには熱線プリントリアウインドウ、スケルトン式高速型ワイパー、ブラックタイプ計器盤、ベルトコンソール付大型コンソールボックス、ボンネットエアスクープ、ビルトインフォグランプなどの装備が施されている。 ボンネット内に搭載されるのは「サターン」のニックネームを持つ4G32型4気筒SOHCエンジン。このエンジンは、昭和44(1969)年に登場したコルトギャランに搭載され熟成されてきたもの。シリンダーヘッドにクロスフロー半球形燃焼室、吸気加熱装置、ダブル5ベアリングなどを採用したことが特徴だ。 この高効率エンジンの圧縮比を9.5に高め、2バレルキャブを2連装した。そのスペックは110ps/14.2kgmで、今となっては非力にも見えるが当時は十分に高性能と言えた。 最大の問題となった排出ガス規制のクリアにはMCAシステムが採用されている。これは排出ガス対策を優先させた最低進角特性のディストリビューターや、高温時のCO排出を防ぐアイドルコンペンセーター、2ウェイクローズドシステムのブローバイガス還元装置、燃料蒸散防止装置などからなるもので、 48年排出ガス規制に対応した。 サスペンション形式は前:ストラット/後:リーフリジッドと当時としては標準的なものだが、そのポテンシャルはずば抜けて高かった。この辺はギャランの時代からラリーで鍛えたノウハウが生きたところだろう。 その他シャシ関連ではステアリング機構はチルトハンドル、ステアリングロック、コラプシブルハンドル、バリアブルレシオギアなど信頼性、耐久性の高いメカニズムを採用した。 ブレーキはフロントにはディスクブレーキを標準装備し、ペダル踏力を軽減するマスターバックが標準装備となっていた。今では当たり前の装備だが、この辺も性能アップに貢献していた。 ランサー 1600GSRは、825kgの軽量ボディとの調和によってパワーウェイトレシオは7.5kg/psと良好で、そのエンジンで5速MTを巧みに駆使すれば、 175km/hの最高速度まで引っ張る実力を秘めていた。 その高性能は国際ラリーを席巻したことでも証明された。昭和48(1973)年、オーストラリアでのサザンクロス・ラリーで勝利を納めたのを皮切りに、翌年の東アフリカ・サファリ・ラリーでも初出場ながら総合優勝を飾り、昭和51(1976)年の同ラリーでもランサーは優勝している。 国際ラリーで活躍したラリーバージョンの1.6L SOHCのエンジン性能は160psに引き上げられていたものの、ラリーカーとしてはけっしてパワフルと言えないランサーが活躍できたのは、どこからでも加速できるロングストロークによる中速域トルク特性の良さと、極めて耐久性の高いシャシの組み合わせによるものだった。 このクルマの登場によって「ラリーの三菱」の名を世界的に轟かせたことは三菱自動車はもちろん、日本車の評価を大いに上げるのに貢献した。 まさに騎士道華やかな時代の「槍騎士(ランサー)」を思わせる、男のスポーツセダン。それがランサー 1600GSRだった。