国立新美術館とM+の共同企画展「日本の現代美術1989-2010(仮称)」の詳細が発表。キーワードは3つの観点
東京・六本木の国立新美術館で、香港の現代美術館「M+」(エムプラス)との共同企画展「日本の現代美術1989-2010(仮称)」 が2025年9月3日に開催予定。その詳細が11月8日に発表された。 国立新美術館は、今年3月に香港西九龍文化地区(WKCD)で開催された香港国際文化サミット 2024にて、M+と国際連携に関する覚書に調印 し、共同企画の開催を発表。この展覧会はそれに該当するものとなる。 本展のキュラトリアル・ディレクターを務めるのはM+のドリアン・チョンだ。チョンは、2013年にM+香港の初代チーフ・キュレーターに就任し、2016年から24年9月まで、副館長(キュラトリアル部門)を兼任。10年以上にわたり、M+のすべてのキュレーション活動とプログラムを監督したきた人物だ。さらにM+以前は、ニューヨーク近代美術館(MoMA、2009-13)、ウォーカー・アート・センター(2003–2009)、サンフランシスコ アジア美術館(1999–2000)で勤務してきた経歴を持っている。 本展は、平成元旦を迎えた1989年から東日本大震災が発生した2011年に挟まれた激動の20年間に焦点を当て、その時代における日本の現代アートシーンを概観するものとなる。この時期を象徴する作家やその作品群に加えて、様々な国や地域との交流から醸成されたアートプロジェクトといった2つの軸で構成。さらに「アイデンティティ」「記憶と反記憶」「関係のネットワーク」(仮)といった3つの観点からその動向や変化を深掘りすることで、「日本の現代美術の多面性」を浮かび上がらせることを試みるという。 例えば「アイデンティティ」という観点からは、日本の現代美術がいかに複雑に変化しているかといった姿に着目。伝統と革新の融合やジェンダーの多様性、若者・大衆文化など様々な角度からトピックを取り上げることで、日本と西洋の二項対立に疑問を投げかけながら、日本の特異点を再検討するという。 「記憶と反記憶」の観点では、日本の過去に関する個人的かつ集合的な記憶に焦点を当て、歴史の真実性や権力構造のなかに眠る語られてこなかったものを掘り起こすことで、既存の歴史に検討の余地を加えることを試みる。 「関係のネットワーク」では、グローバル化の最初期としてのこの20年間に注目し、アーティスト、地域社会、国際的なアート・コミュニティによって生み出されてきた現代の基盤ともなっているネットワークやその特徴を紹介するものとなる。 国立新美術館館長の逢坂惠理子、そしてドリアン・チョンは本展について次のようにコメントした。「M+との初めての共同企画となる本展では、日本美術を海外の視点を取り入れながら読み解くものとなる。米国や日本の美術にも明るいチョンさんに2022年に話を持ちかけ、若手キュレーターも含めて企画を進行している。90年代以前、国際的なアートシーンは西洋が中心であり日本は遠い存在の国であった。かつてできなかったとらえかたを現在ならできるのではないか」(逢坂)。 「開館3年目を迎えるM+は、香港文化を背景に、東南アジアや世界を視野に入れた活動を展開している。なかでも日本の収蔵品は圧倒的に多く、ビジュアルカルチャーの形成に大きな役割を果たしてきたということにほかならない。正直、日本人ではない私に声がけをしたことは大胆かつ勇気のあることだ。しかし、その意味がいかに重要であるかを受け取っている」(チョン)。
文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)