「最後のチャンス」那須で撮影成功 茨城・結城の田崎さん 朝日岳山頂で天の川と紫金山・アトラス彗星が共演
「『君の名は。』みたい」と、アニメーション映画のシーンと重ね合わせた感想も寄せられた「紫金山・アトラス彗星(すいせい)」。地球に最接近した13日夕は天候に恵まれて栃木県内でも各地で観測の報告が相次いだ。「20日ごろまでが見頃」(県子ども総合科学館)だっただけに、引き続き観測に臨んだ人も多かったのではないだろうか。茨城県結城市川木谷2丁目、看護師田崎裕一(たさきゆういち)さん(51)もその一人。20日夕、「最後のチャンス」として那須町湯本の朝日岳山頂から見たものは、夜空に輝く彗星と天の川が共演する絶景だった。 登山歴13年の田崎さんは「登った山の思い出をしっかり残したい」と5年ほど前から本格的に写真を始め、登山時の景色を撮影している。星空には3、4年前から、はまりだした。紫金山・アトラス彗星は地元でも撮影しようとしたが、天候や仕事の都合でタイミングが合わなかったという。「今月末が最後のチャンス」と考え、オリオン座流星群が、21日に活動が最も活発になる「極大」を迎えることもあり、20日夕に朝日岳(1896メートル)、21日未明には那須岳(茶臼岳、1915メートル)に向かった。 20日は朝から北風が吹き荒れていたが、峠の茶屋駐車場で車中待機後、午後3時過ぎから登山を開始。北風とガスの洗礼を受けたものの、日没近くにはガスがいったん晴れ、朝日岳北斜面の木々に霧氷が付いた神々しい夕焼けに目を見張った。午後4時過ぎ山頂に到着。付近はガスに覆われた状況だったが、午後6時を過ぎると「うそのように雲はなくなり、西側の空も視界良好となった。徐々に暗くなると南西方向に金星が輝き、その右上にうっすらと尾を引いた彗星が見えてきた」という。 田崎さんは「目が暗闇に慣れてきたころには、はっきり彗星が確認できた。『こんなに見えるものなのか』と、まずは喜びよりもあっけに取られたのが第一印象。カメラでばっちり撮れた時は、朝日岳の特等席で彗星が見られた高揚感でいっぱいだった」と振り返る。北風と氷点下の山頂に2時間以上滞在したラストチャンス。「一生に一度の紫金山・アトラス彗星が肉眼で見られて感無量。予想よりも少し離れていたが、天の川とも一緒に撮影できた」と絶景に感激していた。 ただ田崎さんの挑戦は、これで終わりではなかった。彗星撮影後の午後8時半ごろには下山し、峠の茶屋駐車場の車内で仮眠。翌21日午前0時に那須岳の峰の茶屋跡避難小屋へ向かった。極大期を迎えたオリオン座流星群が狙いだった。 「もともと1時間で5個くらいしか流れないし、今年は月明かりの影響を受け、悪い条件だったので『大きな火球が見られたらいい。運が良ければ那須岳と一緒に撮影できるかも』という気持ちで登った」と話す。午前1時から朝日岳と那須岳の分岐にある同小屋付近でカメラをセットし連続撮影。南東上空には放射点であるオリオン座。南の空を眺めていたが、小さな流星は月明かりの影響でカメラに写らなかったという。そんな中、目の前に赤く光る火球がオリオン座から西側に流れたのを確認した。 3時間で撮影した180枚のうち、唯一の1枚となった。田崎さんは「何度も訪れている那須岳と一緒に流星を撮りたかったので撮れた時は『よっしゃー』と大きな声で叫んでいた」と喜んでいた。 県子ども総合科学館天文課の原秀夫(はらひでお)課長(47)は「紫金山・アトラス彗星と天の川を一緒に見られたのは、星空の美しい場所ならでは。彗星自体は太陽からも地球からも遠ざかりつつあり、少しずつ暗くなってきていると考えられるが、このように星空のきれいな場所なら、もうしばらくの間、見ることができるかもしれません」と話していた。 オリオン座流星群の写真については「今年は、月明かりがあることから観察条件はよくなかったので、そのような状況下、明るい流れ星をうまく捉えることができた」と評価。その上で「三大流星群の一つである12月のふたご座流星群も今年は月明かりがあるが、今回の写真と同様に月明かりに負けないくらい明るい流れ星を観察できるとよいと思う」と期待していた。