船井電機破産の背景に見る「AVメーカーの不振」、なぜ日本勢は世界に誇る技術力とブランド力を失ってしまったのか
■ 日本のテレビ産業を“絶滅”させないために必要なこと その結果、テレビ産業に「垂直統合モデル」から「水平分業モデル」への大転換が起きた。 それまでは一つのメーカーが、ブラウン管製造、回路製造、組み立てという工程を全て行っていた。ところが、デジタル化によって、液晶も回路も購入して組み立てる時代になった。そしてそれぞれの部品はマスメリットの世界。どれだけ設備投資できるかが優劣を決める。ここに日本企業はついていけなかった。 その代表がシャープだ。シャープは1990年代末に液晶に集中投資。これが実り、三重県の亀山工場で作られた液晶を搭載したテレビは「世界の亀山モデル」ともてはやされた。ところが韓国サムスンなど、資本力に勝るメーカーが液晶ディスプレイに大規模投資したことで徐々に競争力を失っていく。 挙げ句はリーマン・ショックで世界からテレビ需要が一時的になくなったことが直撃し経営が悪化。台湾の鴻海に支援を仰がざるを得なかった。しかしそれでも業績は回復せず、今年、大阪・堺市の液晶工場の閉鎖と大型テレビ向け液晶からの撤退を決めたことは記憶に新しい。 苦しんだのはシャープだけではない。かつてテレビ生産を行っていた日立や三菱電機はすでに撤退。東芝はテレビ事業を中国のハイセンスに売却した。今、日本メーカーでテレビを生産しているのはソニー、パナソニック、シャープぐらいでしかない。 しかも残る3社も世界における存在感は薄い。シャープは前述の通りだが、ソニーはリーマン・ショック以降8年間テレビ事業の赤字が続き、事業そのものを分社化し、生産を大幅に縮小した。今ではそれなりの利益を稼いでいるが、かつて世界トップシェアを誇った時代を知る者にとっては寂しいかぎりだ。 そしてパナソニックのテレビ事業は今も赤字が続いている。日本の家電量販店では日本製テレビがまだ主役だが、これは日本だけの風景で、世界では韓国や中国メーカーの製品ばかり。日本製はほとんどお目にかかれない。これが現実だ。 その背景にはテレビ産業が水平分業に突入して以来、テレビ単体で利益を出すのは難しくなったことがある。だからこそ、ソニーもパナソニックも今ではシェアを追うのを諦めた。一方で単体ビジネス以外できない船井電機は倒産に追い込まれた。 今、若年層はテレビを持たない人たちも多い。彼ら・彼女らはPCやタブレットでTVerを見れば十分と考えている。そのことを前提に、単体ではなくホームエレクトロニクスの中で新たな付加価値を提供できるかどうか。日本のテレビ産業の浮沈はそこにかかっている。できなければ、アメリカのテレビ産業のように“絶滅”が待っている。
関 慎夫