「曲芸みたいなゴルフをリアルに」 「オーイ!とんぼ」原作のかわさき健さんに聞く(上)
「どのキャラクターにも思い入れはあるが、(アメリカのゴルフ場で左足をワニに噛まれ重傷を負い、左打ちに転向した)エマというキャラクターが気に入っている。彼女こそ、ゴルフが好きでしょうがないという人で、だからこそ怪我をしてもゴルフを続けているのだと思う」
ーーとんぼの魅力はキャラクターの生き様。みんな何かを背負っていて、悪役がいない
「悪者が出ていないというのは意識して書いている。他のゴルフ漫画に出てくる敵役の多くは意味もなく、主人公を陥れようとする。読者にゴルファーはみんな悪い奴ばっかりなのかと思われる。商業誌デビューしたとき、その時の担当から、『かわさきさんの原作は悪者出てこないよね』といわれた反発もある。悪者が出てこなくても面白いドラマは作れるんだと。作品ではわかりやすい悪者は書かない。不正を犯す人物も出てくるが、必ずバックボーンも書く。そこは丁寧に書いている」
ーー物語の展開はどう組み立てていくか
「先まで計算していない。1話1話、今回はここが面白いという見せ場を作ってきた結果、山場ができていった。これは父(『巨人の星』や『荒野の少年イサム』の川崎のぼるさん)の教えなんです。漫画原作の仕事をしたときに受けたアドバイスで、『(雑誌で読む)その1話が面白くなるように』と。話の最後に強い引きを持ってくるのが当たり前になっていることに対する反発もあって、1話でお腹一杯になるように毎回勝負のつもりで書いている」
ーーとんぼが勝つか最後まで分からない
「結果は本当に決めていない。上がり3ホールでも『誰を勝たせようか』とやっている。最後は自分の感情に任せて決めている。ライブ感というか、アドリブ感というか。どうすれば面白いかということばかり考えている」
ーーとんぼが島を出るエピソードは屈指の名場面となった
「アニメでも島を出るときの(祖父の)ゴンじいとの別れに泣いたという評判を聞き、うれしかった。あのシーンは僕の娘が家を出るときに、似たような経験があって、それがみんなに共感してもらえたと思った。娘の背中を押したけど、実際に出ていくとなると、『いなくなっちゃうんだ』と、空港で娘の友達もいるのに一人ボロボロ泣いて、すごく恥ずかしかった」(聞き手 高木克聡)