第９２回選抜高校野球大会（毎日新聞社、日本高野連主催）に初出場を決めた加藤学園は、失敗を恐れない「思い切りの良い野球」をスローガンに掲げる。地域に「カトガク」の愛称で親しまれるチームは、一丸となって大舞台で旋風を起こそうと練習に励んでいる。センバツ挑戦を決めるまでのチームの奮闘と軌跡をたどる。【池田由莉矢】 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 　ファウルボールが沼津市足高の練習グラウンドから近くの雑木林に飛んだ。紅白戦形式の練習をしていた選手約３０人は、グラブとバットを置き、林に向かって駆け出す。腰ほどに伸びた草を全員でかき分け、約２０分かけて白球を見つけ出した。グラウンドに戻って同じボールで練習をやり直したが、再び打球は林に飛び込んだ。 　昨年８月２２日から約３週間、チームは硬式球一球のみで練習に取り組んだ。ノックで後逸があれば、その選手が処理するまで他の選手は待機を余儀なくされる。毎日のようにファウルボールを捜しに林に入った。センバツにつながる県大会を控えた時期に練習時間が削られ、焦りを隠せないメンバーもいた。 　「一球練習」が始まる５日前の東部大会２回戦の富士宮北戦。２―１で辛勝したものの、１１残塁の拙攻。守備もカバーの遅れが目立った。四回２死満塁で外野フライに打ち取られた佐野陸斗中堅手（１年）は「『自分が』と気負っていた」と振り返る。チームで戦う意識が欠けていた。 　８月２１日の立花学園（神奈川県）との練習試合も、気持ちを切り替えられず散発４安打で０―５の敗戦。「練習ではボールを一球しか使わない」。試合後、米山学監督（４１）は何十球も使っていた練習方法の変更を指示した。全員で野球に集中する気概がないと感じ、選手の意識改革のための荒療治だった。 　平尾勝多右翼手（１年）は、新チームになって内野手から外野手に守備位置を変え、捕球ミスが目立っていた。「打者が打つ瞬間をよく見て、早く動き出す」。一球練習では、時間を無駄にしまいと予備動作を意識した。佐野中堅手も投手の動作に合わせ、早めに準備することを心掛けた。ナインからは「一球も気を抜くな」と自然と掛け声が上がった。 　一球の大切さを実感した選手たちは県大会で快進撃を見せた。２回戦から準決勝まで、常葉大菊川、静岡、静岡商と甲子園の出場経験がある強豪校を全て１点差で降した。決勝の藤枝明誠戦は失策が絡んでサヨナラ負けしたが、東海大会に向けて下を向く選手はいなかった。 　センバツ出場がかかった東海大会準決勝の県岐阜商（岐阜）戦。七回２死満塁のピンチで、５番バッターが打席に立った。２球目、打者がタイミングを外し、右前にフライがふらふらと上がった。準備していた平尾右翼手は猛然と打球に向かいダイビングキャッチ。ファインプレーでチームをもり立てた。 　延長十回にサヨナラを許し力負けしたが、県岐阜商に見せた粘り強い姿勢がセンバツ出場につながった。勝又友則主将（２年）は「『一球練習』で一人一人がチーム全体を考え、行動するようになった。開幕まで全員野球に磨きをかけたい」とチームの変化に自信を示す。＝つづく