【舛添直言】「与党不人気」の中で解散・総選挙を決断した英スナク首相と、決断できない岸田首相の差
■ 労働党との政策論争の中身 では、多くの支持を集めている労働党は、どのような政策を打ち出しているのか。 労働党のサー・キア・ロドニー・スターマー党首は検察官出身で、検察局長官を5年間務めた経歴がある。労働党の中では、左派の前党首のジェレミー・コービンとは異なり、穏健派である。 5月27日、スターマーは、イングランド南部のウェスト・サセックスで選挙戦初の演説をし、「イギリスを再び、働く人に仕える国にする」と述べた。 労働党は、不法移民のルワンダ移送には反対であり、移送を中止して、国境警備の強化で対応するという。 また、労働党は、選挙権を18歳から16歳に引き下げるという。 経済については、保守党は減税によって経済を活性化させると主張するのに対し、労働党は、法人税増税や所得税増税や社会保険料の引き上げは実施せずに、石油・ガス会社や私立学校や外国人に増税し、それを財源にして教育や医療を充実させるとする。保守党は、年金受給者への所得税減税も公約に掲げている。 国民医療制度(NHS)に関しても、利用する際の待ち時間が長いという不満も嵩じており、労働党はその改善を約束する。 エネルギー政策については、労働党は地球温暖化対策を重視し、北海での石油・ガスの新規開発を中止するが、保守党は継続する。 外交・防衛については、両党の間で大きな違いはないが、保守党は18歳の国民に12カ月のナショナル・サービス(兵役や社会奉仕)を義務づける。しかし、それには25億ポンド(約4800億円)の予算が必要である。 徴兵制は、リトアニア、エストニア、ラトビア、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどで実施されている。デンマーク、スウェーデン、ノルウェーでは女性にも兵役が義務づけられている。ウクライナ戦争を機に、ドイツでも再開の是非を議論している。 労働党は、保守党政権下で国防予算が減らされ、イギリス軍が弱体化したと批判する。この批判に対して、スナク首相は防衛費を現行のGDP比2.3%から2030年までに2.5%に引き上げると表明している。 EUとの関係も大きな争点となる。保守党は、2016年に国民投票でEUからの離脱を決めた。このBrexitに関しては多くの国民が失敗だったと思っており、労働党はEUとの関係修復を図る。