原作には無かった味付けが最高…科学部の“部”としての連帯感とは? NHKドラマ『宙わたる教室』第3話考察レビュー
「自分を救おうとする人間しか手助けできない」
新たなハブを見つけられそうになっていた佳純だったが、同じクラスの真耶がそれを留めようとする。真耶は佳純も自身と同じく、リストカットをしていることを見抜くと「うちら、同類でしょ?」と持ち掛け、一緒にリストカットをしようとしつこく誘う。 たしかに、2人にはリストカットをしているという共通点はある。辛さから逃げるために自分を傷つけずにはいられなかった点は同じだろう。だけど、気持ちの部分では明確な違いがあった。 真耶から届いた腕の傷跡の写真を見て、佳純は「グロいよ」と言った。つまり、佳純にとってリストカットはできることならやめたい行為なのだ。一方、真耶にとっては注目を集めるための手段。やめたいという気持ちは、残念ながら感じられない。 そんな真耶に、佐久間は保健室から出て行くように言う。人の命を危険にさらすような人間を、保健室には置いておけない。そこまではっきりと言ってしまって大丈夫なのだろうかと心配になるほど、きつい言い方だった。 だが、佐久間には生徒が気を引くためにとった行動に振り回されて視野を欠き、後悔した過去があった。できることなら全員救いたいが、現実問題として「自分を救おうとする人間しか手助けできない」。 これが、佐久間が養護教諭をしていくなかでいまのところたどり着いた答えなのだろう。実際、「死んでやる」と言い残して保健室を後にした真耶は、ほかの仲間と楽しそうに談笑していた。だからといってこのまま真耶を放っておいていいわけではないだろう。彼女にも、このままではいけない、と思うようなきっかけが訪れることを祈る。
“オポチュニティの轍”が表すもの
真耶を探しに出たまま、屋上でオポチュニティが撮影した写真を見つめる佳純。そこには、“オポチュニティの轍”が映し出されていた。オポチュニティの寂しさに思いを馳せる佳純に対し、藤竹は「オポチュニティの轍を孤独の象徴と捉える人もいるでしょうが、僕には懸命に生きた証に思えるんです」と静かに語る。 懸命に生きようとした証――それは、佳純の腕に残る傷跡も同じだ。「消えたい」と思う日々を乗り越えるために必要だった傷。そして、オポチュニティの長い旅がスタッフたちに支えられていたように、佳純のことを心から心配してくれる人もいる。佳純を探し回り、恐らくは藤竹の報せを受けてやって来たのだろう佐久間もその1人だ。 強く叩かれたドアを開けることもできず苦しんでいた佳純だったが、自らの手で科学部への扉を開くことができた。母親の無理解、佳純への苛立ちが原作よりも明確に描かれていたことで、佳純の孤独に立体感があった。また、佳純が姿を消したときに岳人(小林虎之介)も一緒に探していたことも、岳人の仲間想いな一面を補足し、科学部の“部”としての連帯感を感じさせる、よい味付けだった。 火星の夕焼けを再現する実験を機に、佳純は科学部のメンバーとなった。疑問に思ったことを考え続け、身の回りのものからインスピレーションを受けてアイデアを出していく岳人、その場の大気を安定させる雰囲気をもつアンジェラに、知識を携えた佳純が合流した。既定の人数を満たした科学部は、正式に発足することになるはず。藤竹に記録係を任された佳純は、科学部のどんな轍を残していくのだろう。 【著者プロフィール:あまのさき】 アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。
あまのさき