大の里「てんぐになっていた」日体大時代は栄光より無冠の1年を大事に…小さな挑戦積み重ね飛躍につなげる【大相撲連載(中)】
アマチュア13冠の実績を引っ提げ、角界入りした大の里。日体大時代の快進撃を「大相撲の世界に入った以上、アマチュアの実績は関係ない」と多くは語らないが、栄光よりも無冠の1年間を胸に刻んでいる。等身大の大学生として乗り越え、未来への糧にした。 「1年生の時に(個人戦で)6度、優勝して『おっしゃー』と思っていたら、2年生では1度も優勝できなかった。それは多分、てんぐになっていたからだと思う。相撲の神様が試練を与えてくれたんじゃないかな。『調子乗るなよ』と」
本人は辛口だったが、周囲の見立ては相手の研究が要因。勝っておごることもなかった。入学して間もなくレギュラーとなり、雑用をほぼ免除されたが「仕事量が少なくて申し訳ない」が同学年への口癖。ピザを差し入れた日もあった。 そんな姿を覚えているのは、大学同期で現在は大の里の母校の新潟・海洋高で、コーチを務める寺尾拓真さん(24)。勝てずに苦しんだ2年生の一年間、相撲部の寮で幕内阿武剋らとともに同室だった。 寺尾さんもスランプだった時期で、合言葉は「できることからやってみよう」。まずは心を整えた。掃除機を割り勘で買い、部屋をピカピカにした。特に大の里は、仲間の声かけにも気付かず没頭。集中力を磨く時間になった。 体のケアも見直した。単なる長風呂でなく、水を入れ、次はお湯を足して疲労回復効果が高い交代浴に近い状態を取り入れた。「ショートスリーパー系なんです」という大の里だが、日付が変わる前に就寝。8時間近い睡眠時間を確保し続けた。小さな挑戦を積み重ねて3、4年生での2年連続アマチュア横綱など、飛躍につなげた。
日体大出身として初の大関昇進を控えるが、同大では祝賀パレードを予定していない。誰もが、番付の頂点を期待しているから。寺尾さんは「大の里は怪物と言われるけど、そうじゃない。将来を見据えて努力して、今がある。同じ姿勢で頑張ってほしい」と願う。まずは大の里が25日、その名をさらに輝かせるため、大関としての第一歩を踏み出す。
中日スポーツ