大阪市立図書館が自習利用容認へ 市「可能性探っていく」
静かなる圧力?「この席での自習はご遠慮ください」
『この席での自習はご遠慮ください』。市立中央図書館の閲覧席には、こう記したプレートが設置されている。地域図書館でも同様の趣旨のプレートなどを掲示しているケースが多い。 ただし、自習そのものを全面的に禁止しているわけではない。市立図書館のホームページでは「持ち込み資料だけによる自習のための席の利用はご遠慮いただいています」と明記したうえで、「ただし、図書館資料とともに持ち込み資料をお使いになるのは差し支えありません」と補足している。 つまり図書館の本を1冊でも手元に置いておけば、学生が参考書を開いて受験勉強をすることが、半ば黙認されている。友人たちと閲覧席を占拠して騒いだりしない限り、自習だけを理由に退席を求められることはない。多様な意見の文献を網羅する図書館らしい「大人のルール」が適用されていることになるが、「自習はご遠慮ください」プレートが、自習利用希望者には、一定の圧力になっていることは否定できないだろう。 これからは自習利用容認に向け、各区長と地域図書館長が協議に入る。一般来館者との摩擦を回避しつつ、自習利用容認のルールをどのように設定し、いかに広報していくか。説明する文言をめぐるきめ細かい調整も含めて、区役所と地域図書館の真剣な協議が必要になりそうだ。
多様な自習ニーズに応えて地域の学びの場へ
大阪市の各区長は地域に密接する職務の特性から区担当教育次長を兼務し、教育行政に関与する権限と責任を持つ。水谷区長が図書館の自習利用を認めてほしいとの地域の声を区長会議に報告。区長会議の決議や市会での質疑を経て、地域図書館の弾力的運用による自習利用容認に向けた政策転換を引き出した。区長の決断が市政改革をもたらした事例のひとつといえよう。 図書館は知識の森にたとえられて重視される半面、一部の本好きを除いて利用率が高まらないとの課題が指摘されて久しい。 自習利用を望むのは、若い受験世代に限らない。起業準備を進める起業予備軍や自己啓発をしながら再起を図る求職者、ライフワークの研究に打ち込むシニア世代、特定のオフィスを持たないフリーランス・ワーカーなど、幅広い層が気兼ねすることなく調べものをしたり、考えをまとめたりできる身近な公共スペースを求めている。 住民がそれぞれの成長度合いや環境変化に応じて図書館を繰り返し活用すれば、図書館の存在意義や利用率も高まってくるのではないか。地域図書館の自習利用容認の動きが、多様な人たちが幅広く人生を切り開くための地域の学びの場づくりの端緒になるよう期待される。 (文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)