夢とうつつを行き来する筒井文学を完全実写化!映画『敵』を観て「そりゃ、賞とるわ」と思った話
【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】
東京国際映画祭で東京グランプリ、最優秀監督賞吉田大八さん、主演男優賞長塚京さんと三冠を達成した、巨匠筒井康隆さんの作品を原作とした映画『敵』を、一足先に試写で観させて頂きました。 映画『敵』予告編 「そりゃ、賞とるわ」 これ以上の感想が出てこないぐらい、完璧で素晴らしく見ごたえのある映画でした。 妻を亡くし、細々と作家をしながら暮らしている、フランス文学専攻の元大学教授の、静かな生活を淡々と描いていく、やがて「敵」の影がじわじわと迫ってくるというストーリー。 文学って、あらゆるエンタメの中で、一番自由なんですよね。「すっごい爆発した」って8文字書けば、読者の頭の中で想像しうる最高の爆発が再現される。「とても美味しかった」と、書けば想像しうる最高の味がクチの中に広がる。 漫画にしろ映画にしろ、映像にしてしまっては、そこを観客の想像の限界にしてしまうような感じ。 特に筒井先生の作品は、縦横無尽に「夢と現(うつつ)を行き来する」のが特色だと思っていて、多分ほとんどのクリエイターが「こんなん映像化できるか」と、思うほど「文学の武器」を振り回している作風。 こういう文学的作品は、よほど丁寧にやらないと「劣化版」になることが多い印象です。 つまんないラノベとか漫画は「映画化ですげー良くなった」みたいなこともちょいちょいあるけど。 今敏監督の「パプリカ」を観た時に「筒井ワールドをここまで再現できるとは!」と、驚いたのを覚えていましたが、当時「これはアニメだから出来たんだな」と、思っていたのを、 いよいよ、実写にすることに成功されていました。 全編モノクロ調で描かれていて、半分以上、一人暮らしの老人が料理を作って食べるシーンばかりなのですが、 その料理の「シズル感(視覚に美味しさを訴えかける、みたいな意味です)」が、たまらない! 過去のモノクロ映画でもシズル感のある映像は沢山あるのですが、フルカラーでCGバリバリで、色味を調整したり、CGで湯気を足したり、そういうことが多い現代の映画界で「モノクロで、このシズル感を出せるスタッフがいる」というのは、自称映画監督見習いの筆者からすると、めちゃくちゃ感動的でした。 最も魅力的なのは、主人公が“人間”だったことかな。正しくもなく、悪くもなく、愚かでもなく、愚か。 長塚さん演じる主人公を、誰がどう感じるか。 不条理なのにリアル。 まさに、原作、画面を飛び越えて、夢と現で脳内を「俺、今どこにいるんだろう?」と、貫かれる傑作でした。 鬼が笑うかもしれませんが、我慢できなく書いてしまったので楽しみにお待ち下さい。 来年1月に公開だそうです。 ※27日10時に一部修正更新しました。