長谷川健太新監督のFC東京意識改革は「ガムを噛むな」から始まった
至福の喜びを一刻も早く分かち合いたかったのか。 今シーズンのリーグ戦初勝利をあげた余韻が色濃く残るホームの味の素スタジアムのピッチへ、スーツに革靴姿のFC東京の長谷川健太監督(52)が小走りで入り込んでいく。 日本代表に復帰したDF森重真人と、キャプテンを任せた韓国代表DFチャン・ヒョンスと、そして千金の決勝点をあげたFWディエゴ・オリヴェイラと。激闘を終えた選手たちと次々と抱き合った。 「最後までアグレッシブに戦えたことが、勝ち点3を引き寄せたと思っている。守備に関してはほぼパーフェクト。選手たちや熱い声援を送ってくれたサポーターに本当に感謝したい。ただ、やっと1勝という言い方もできるので、次へ向けてしっかりと準備したい」 長谷川監督は、FC東京監督としてのJリーグ初勝利をそう振り返った。 ハードワークを武器とする湘南ベルマーレと対峙した18日の明治安田生命J1リーグ第4節。開幕戦で浦和レッズと引き分けた後は、ベガルタ仙台とジュビロ磐田に連続完封負けを喫していたFC東京が、見違えるような戦いぶりを見せた。 総走行距離で湘南の115.336kmに対して114.011kmとほぼ互角の数字を残し、特に後半は球際の攻防の激しさや出足の速さ、集中力の高さで終始圧倒。相手のシュート数をゼロに封じ込め、同1分に決まったオリヴェイラのミドルシュートを守り抜いた。 「そこ(ハードワーク)は自分の(サッカーの)ベースになる部分なので、湘南が相手でも負けるわけにはいかなかった。ハードワークを身上とするチームにこういう形で勝てたことは、いまのチームにとって大きな自信になる」 2014シーズンの国内三冠独占を含めて、指揮を執った5年間で4個のタイトルを獲得したガンバ大阪を昨シーズン限りで退団。筑波大学蹴球部時代のひとつ後輩、大金直樹代表取締役社長(51)の熱いラブコールを受ける形でFC東京の監督に就任した。 昨シーズンのFC東京はFW大久保嘉人(現川崎フロンターレ)を筆頭にGk林彰洋、DF太田宏介、MF高萩洋次郎、FW永井謙佑と日本代表経験者を大型補強。開幕直後には2016シーズンの得点王、元ナイジェリア代表FWピーター・ウタカも獲得した。 しかし、2015シーズンから所属するFW前田遼一を含めて、J1得点王経験者を3人も擁しながら総得点37はリーグワースト6位。期待を大きく裏切る13位に終わった理由を、大金社長は「FC東京は『甘い』あるいは『緩い』という言葉で表現される」と総括していた。 妥協を許さない厳しい指導でガンバをJ2から1年で復帰させ、鹿島アントラーズに対する「西の横綱」に育て上げた長谷川監督の目にも、真の実力が問われるリーグ戦のタイトルにFC東京が無縁だった理由が伝わってきた。 「選手同士がいい意味ですごく仲がいいけど、チーム内における厳しさという点でどうなのかと。非常にポテンシャルが高い選手が多いのに、なかなか開花し切れないのは、居心地のいいチームだからなのか、と」 1月の自主トレを視察した指揮官が抱いた率直な印象だ。そして、始動とともに練習中は[1]ガムを噛まない[2]ソックスを上げるなど試合中と同じ服装とする[3]必ず返事をする[4]早目に練習場へ来る――からなる4ヶ条の徹底事項を言い渡した。