長谷川健太新監督のFC東京意識改革は「ガムを噛むな」から始まった
いずれもプロ選手にあらためて言うレベルではない。 しかし、4ヶ条には明確な意図が込められていた。指揮を執ってからのチーム内の変化を湘南戦後に問われた長谷川監督は、「私にはよくわかりません」と前置きしながらこう続けた。 「評価というものは周りの人たちがするものなので、チームに変化が起きるような刺激を引き続き与えていきたい」 異質に映った4ヶ条は、ぬるま湯的な体質から脱却させる抜本的な改革の第一歩。 ガンバで三冠を獲得したときの主力で、長谷川監督のたっての希望でヴィッセル神戸から加入したMF大森晃太郎は「練習中からホンマに怖い」と、指揮官の指導をこう説明してくれたことがあった。 「優しい感じで接してくれているときが、実は一番怖い。僕のことを多分アホやと、戦術のことを言っても無駄やと思っているので、『行け』と『やれ』しか言われたことがないんですよ」 湘南戦のキックオフを前にして新たな言葉が加わったと、大森は苦笑いする。 「釘をさされるように『わかっているな』と。もう次(のチャンス)はないぞ、というくらいの雰囲気で。怖くて(監督の)目を見られなかったです」 ガンバ時代の生命線は、労を惜しまない運動量を武器に攻守両面を常に活性化させる、大森と阿部浩之(現川崎)の両サイドハーフが担ってきた。 今シーズンのFC東京で大森とともに同じ役割を求められている、ロンドン五輪代表の東慶悟は昨シーズンまでと異なり、日々の練習中から緊張感や戦う姿勢が漂っていると指摘する。 「勝者のメンタリティーをもつ監督が来てくれて、やっぱり変わらないといけないし、強いチームになりたい。個人的にも強い選手になりたいし、みんなもそう思っている」 湘南戦では個人の総走行距離とスプリント回数の1位と2位を、ともに先発フル出場した東と大森が占めた。いわゆる「長谷川イズム」を体現し、湘南のお株を奪うハードワークを実践する先導役を果たした。もっとも、厳しいだけでは選手たちはついてこないと東が続ける。 「怖いですけど、すごく愛があることは全員がわかっているので」 昨年9月9日のヴィッセル神戸戦で喫した黒星を皮切りに、長谷川監督はリーグ戦で10試合勝ちなしでガンバを去った。直前にガンバからの退団が発表されたことと、実は無関係ではなかった。 「どんなに頑張ってもケツ(終わり)が決まっていたので。負けてもしゃあねえというわけじゃないけど、だったらそれまで頑張ってきた選手を使おう、と。そういう情が入っちゃうとやっぱりダメだ、勝負には勝てないとあらためて感じた半年間でした」 FC東京を率いても勝ち星なしは続いたが、指揮官は「去年とはモチベーションがまったく違う」と一笑に付した。情を再び胸の奥深くに封印し、勝負に徹し続けた過程で手にした、14日のYBCルヴァンカップに続く公式戦白星。鬼軍曹をほうふつとさせる長谷川監督のもとでFC東京が少しずつ、確実に変わりつつある。 (文責・藤江直人/スポーツライター)