米最高裁、トランプ氏主張の「免責特権」一部認める 審理差し戻し
トランプ前米大統領が2020年大統領選の結果を覆そうとしたとして起訴された事件で、連邦最高裁は1日、大統領在任中の公的な行為には原則的に「免責特権」が適用されるとの判断を示した。起訴内容となっているトランプ氏の行為も広く免責の対象となる可能性があるとして、公的なものか、公的でないものかなどを判断するよう下級審に審理を差し戻した。 【写真】判決を出した米連邦最高裁の判事9人 11月の大統領選で返り咲きを目指すトランプ氏は、選挙への影響を懸念して事件の公判の先送りを図ってきた。免責特権に関する審理が下級審に差し戻されたことで、事件の公判開始はさらに遅れる見通しになった。トランプ氏は1日、自身のソーシャルメディアに「我々の憲法と民主主義にとって大きな勝利だ。米国人であることを誇りに思う!」と投稿した。 大統領の免責特権については、過去に民事事件で最高裁が判断を下したことはある。しかし、大統領経験者が起訴された例はこれまでなく、刑事事件で免責特権について判断を下したのは初めて。 最高裁は、大統領による憲法上の主要な権限に基づく公的な行為は絶対的に免責されると指摘。他の公的な行為についても「推定的に」免責されるとしたうえで、訴追する場合は大統領が担っている行政府の権限と機能を侵害する危険性がないことを検察側が示さなければならないとの判断を示した。公的ではない行為は免責されないとした。 そのうえで、起訴内容のうち、選挙結果を覆すよう圧力をかけたとされる司法省高官らとのやりとりについては「免責される」と判断。議会で選挙結果を認証する手続きを上院議長として務めるペンス副大統領(当時)に圧力をかけたことについては、公的な行為にあたるため免責と推定されるとしながらも、訴追が「行政府の権限と機能に対する侵害の危険をもたらすかどうか」を地裁が評価するとした。州当局者らに圧力をかけたことなどについては、それらの行為が公的なものか公的でないものかを判断するよう地裁に差し戻した。 9人の判事で構成される最高裁は、トランプ氏が在任中に指名した3人を含めて保守派が6人、リベラル派が3人。判決はその構成通り、保守派6人が多数派意見、リベラル派3人が反対意見を述べた。反対したソトマイヨール判事は「法の上に立つ者はいないという、わが国の憲法と政治システムの根幹をなす原則を愚弄(ぐろう)するものだ」などと多数派意見を批判した。 トランプ氏は20年大統領選で敗北した結果を覆すために、投票結果の集計作業を妨害したり、関係者に圧力を加えたりしたなどとして「国家を欺くための共謀」など4件の罪状で起訴された。しかし、罪に問われた行為は在任中の公的な行為の一環だとして刑事訴追を免れると主張。ワシントンの連邦地裁、控訴裁(高裁)はいずれも免責を認めなかったが、これを不服として上訴していた。 事件の裁判は、最初の公判期日が3月4日に設定されたが、免責特権について司法判断が固まるのを待つ必要があるとして延期されたままになっている。 トランプ氏はこの裁判のほか、3件の刑事裁判を抱えている。このうち、16年の大統領選直前に不倫相手に口止め料を支払って不正に会計処理したとして起訴された事件では、米東部ニューヨーク州の裁判所が5月30日に有罪評決を下している。口止め料裁判は免責特権の議論の対象外で、裁判所は7月11日に量刑を言い渡す予定だ。 このほか、大統領在任中に取得した機密文書を持ち出したとしてスパイ防止法違反などの罪に問われた事件と、南部ジョージア州で20年大統領選の手続きに干渉した事件があるが、いずれも公判が開かれるメドは立っていない。 米メディアによると、トランプ氏は大統領選に勝利すれば、自身が指名する司法長官に起訴を取り下げさせる異例の措置を取ることが予想されるという。【ワシントン西田進一郎】