「ちっちゃい変なやつがごちゃごちゃ言ってる」ウエストランド井口、快進撃の理由は圧倒的な「雑魚キャラ」感
総合的に見て優秀な芸人
今のお笑い界では、無名の芸人が世に出るためのチャンスは賞レースしかないと言われている。「M-1グランプリ」「R-1グランプリ」「キングオブコント」などの全国的な賞レースで優勝したり、決勝で活躍したりすることできっかけをつかみ、仕事を増やしていく。それが世に出るための一般的なルートであると言われている。 【写真】「そっくりw」「指名手配みたい」…ウエスランド井口と新5000円札の津田梅子。最新の乾杯ショットも ***
しかし、この道を行くのも決して簡単なことではない。何千組もの芸人が出場する賞レースで決勝に残るだけでも難しい上に、そこで優勝するのはもっと難しい。 また、たとえ優勝したとしても、売れっ子になることが約束されているわけではない。過去のチャンピオンの中には、優勝しても波に乗り切れず、そのままフェードアウトしてしまった人もたくさんいる。芸人が売れっ子になるための生存競争というのはそれほど厳しいものなのだ。 そんな中で、見事にサバイバルレースを勝ち上がり、テレビで活躍を続けているのがウエストランドの井口浩之である。彼は2022年に「M-1」で優勝して以来、バラエティ番組に出る機会が急増した。 そして、そこから約2年経った今でも、レギュラー番組の「耳の穴かっぽじって聞け!」(テレビ朝日系)をはじめ、多くの番組に出演している。「あらゆるものに噛みつき、悪態をつく」というリスキーな毒舌芸を売りにしている彼が、ここまで快進撃を続けられる理由は何なのか。 まず、大前提として押さえておきたいのは、井口が総合的に見て優秀な芸人であるということだ。芸人を純粋な能力値だけで考えた場合、彼ほどの逸材はそうそう見つからない。 「M-1」で優勝しているだけあって、ネタを作る能力や演じる能力に関しては、文句なしのレベルにある。1人で自由にしゃべらせても面白いし、芸人、タレント、一般人などの誰と絡んでも会話を盛り上げることができる。
ナメられる才能
相手が先輩でも後輩でも、何らかのポイントを見つけてイジったり、毒づいたりして笑いを生むのはお手のもの。東野幸治などからイジられる側に回れば見事に受け身を取り、ひな壇では自分に順番が回るまでガヤを飛ばし続ける。ここまでガツガツしていて中身も伴っている芸人は珍しい。 ただ、そこまで優秀な芸人でありながら、井口には「できる人」特有のオーラが全くない。芸人から尊敬されたり、憧れられたりするということがない。「好きな芸人」「面白い芸人」などのアンケート調査で上位にランクインすることもほとんどない。 それどころか、お笑い界でも世間でも、どこかナメられていて、不当に低く見られている。「M-1」優勝という実績を残しているにもかかわらず、チャンピオンとしての風格を感じさせるところが一切ない。相変わらず圧倒的な「雑魚キャラ」感を残しているのだ。 井口がそう思われている理由は、その見た目と芸風にある。背が低くて歯並びも悪い上に、やたらと他人に噛みつき、嫌なことを言う毒舌芸を売りにしている。誰がどう見ても「ちっちゃい変なやつがごちゃごちゃ言ってる」という感じになるので、尊敬や憧れや好意の対象になることがない。 類まれなるお笑いセンスの持ち主である井口の本当の強みは、圧倒的な「ナメられ力」にある。常に人より下の立場に潜り込み、上に石を投げるようにして毒を吐く。このナメられる才能がある限り、彼への仕事のオファーが絶えることはないだろう。
ラリー遠田 1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。 デイリー新潮編集部
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