長生き怖い…低所得層転落、移民送還で介護士不足。米国理想の老後はどこへ
介護者の重荷を軽くするハワイ州の試み
2017年12月15日付のニューヨークタイムズ紙の記事「介護者の重荷を減らす」は、ハワイ州で施行された「Kupuna Caregivers Act」について報じています。 Kupunaはハワイ語で高齢者という意味。自宅で高齢者の家族を介護する人々の重荷を軽くすべく、1日最大で70ドルを支給するというプログラムです。支給は、介護者が週に少なくとも30時間以上働いていることが条件で、お金は介護の必需品や介護のために削られた収入の補足、ヘルパーを雇うことなどに使えます。この法律は、ハワイ州の家族の大半が両親や祖父母を老人ホームではなく自宅で介護したいと思っていることを反映したものだということです。 いずれにせよ長期にわたる介護は米国の家計を圧迫しています。ワシントン州では、超党派の議員たちが一律の長期介護支援を提供できる「Long Term Care Trust Act」法案を2017年提出。可決・施行されれば、給料から一定額が天引きされ、そのベネフィットを必要に応じて州民の誰もが受けられるというものです。 このプログラムは自宅介護だけでなく、老人ホームへの入所にも適用され、その額は最大で1日100ドル。つまり、国民皆健康保険ならぬ州民皆介護保険です。もっとも2018年3月現在で5回も再提出されていますが、まだ州議会下院の採決にさえ至っていない状態。国民皆健康保険制度にさえかなり抵抗感が強い米国では、介護限定とはいえ「皆保険」制度の実現がなかなか難しいであろうことは想像にかたくありません。
長期介護は誰が払っているのか
英語でいう「Long term care」(長期介護)の必要性は、言うまでもなく歳をとればそれだけ増します。自宅での長期介護は、先述のようにしばしば家族の手で行われますが、障がいが重度だったり、健康状態が深刻、または何らかの理由で在宅介護を受けられない人たちは、関連施設に入所するのが一般的です。 一番要介護度が高い人は「Skilled Nursing Home」(以下ナーシングホーム)に入所しますが、これは日本でいう介護療養型医療施設のイメージに近いです。「Assisted Living Facility」と呼ばれる施設が特別養護老人ホームというところでしょうか。この二つのもっとも大きな違いは、医療従事者が常駐しているかどうか。つまり要介護度の違いです。 長期介護のなかでもっとも費用がかかるのは、やはりナーシングホームで、月額平均は4500~1万2000ドル。一方「Assisted Living Facility」は2500~6000ドルです。一見するだけでかなりの高額ですが、誰がこれを支払っているのでしょう? 少し古いデータになりますが、2010年に長期介護に費やされた総額は公的資金および自費ほかも含めて2079億ドルにのぼります。その60%以上は、メディケイド(低所得者・障がい者のための公的医療保険制度)がカバーし、個人が支払った割合は20%ほどにすぎません。約10%は民間の長期介護保険や健康保険から支払われました。ちなみに2040年にはこれが3460億ドルに膨れ上がると米議会予算局が算出しています。 2010年にメディケイドがカバーした長期介護関連費用は金額にすると1293億ドルで、総支出の約31%にあたります。一方、自費でナーシングホーム代を支払っている人々のケースでも、その額は平均して高齢者の年間収入の241%。州によって異なりますが最高で444%というケースもあり、高齢者自身の収入では全くカバーしきれていない実態がこれらの数字から一目瞭然です。 これをカバーしているのは長期介護の主要プレイヤーである家族です。また、45歳以上で突然の無期限長期介護が必要となった場合に、経済的にその準備ができていない人の割合は4人に1人とされており、メディケイドを共同負担する州および連邦政府を筆頭に、長期介護をめぐる公的負担がかなりのものであることがわかります。