日本が戦争犯罪の“抜け穴”になるおそれも…プーチン大統領に“逮捕状”出した日本人裁判官 単独取材で見えた「日本の課題」
■日本が戦争犯罪の“抜け穴”に 法整備が急務
ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルとイスラム組織「ハマス」による衝突など、世界では戦争犯罪が疑われるケースが後を絶たない。しかし、日本の法制度には戦争犯罪や人道に対する罪に関する処罰規定はないため、赤根氏は「日本が戦争犯罪のループホール(抜け穴)になるおそれがある」と指摘。法整備が急務だと訴えた。 「ヨーロッパの多くの国々には『戦争犯罪』に関する国内法がある。しかし日本には、国外で外国人が行った戦争犯罪に関する処罰規定がない。そのため、たとえば国外で起きた日本人が関わっていない戦争犯罪の容疑者が日本に“難民”として入ってきた場合、日本では何の法的措置もとることができないのが現状だ。日本は戦争犯罪者が逃げ込める場所になってしまうのではないか、日本の法制度がループホール(抜け穴)になってしまうのではないか…と懸念している。最終的には、法の世界における日本の安全保障にもつながる問題で、こうした事態をなるべく早く解消するべきだ」 ―――日本に戦争犯罪に関する国内法がないのは、なぜか? 「日本は戦後、ずっと平和を維持していて、日本周辺でも大きな有事が起きていない。そのため、戦争犯罪に関する国内法は必要ないという声が一番大きかったのではないか」 「ただ、ウクライナ(侵攻)の事態が起きて世界の情勢が大きく変わり、法整備の必要性が増していると感じる。正直、私自身もウクライナの事態が起きるまでは、あまり考えていなかった。ただ、今は日本の近辺で戦争犯罪が起きないという断言はできない。日本を守るのは防衛力だけではない。法の力によって“そういうことをしたら処罰されるのだ”という姿勢を示すことが重要だ」
■並々ならぬ正義感 『銭形平次』の影響も…
赤根氏へのインタビューを通して感じたのは、並々ならぬ正義感だ。その強い正義感は、どこで培われたものなのかと聞くと、子どもの頃に見ていたテレビ時代劇『銭形平次』に少なからず影響を受けたという。善事を勧め、悪事を懲らす「勧善懲悪」のストーリーが好きで、検事やICCの裁判官としての仕事にも通ずるものがあると語った。 「勧善懲悪――最終的には必ず善が勝つというストーリーが非常に好きだった。誰かが悪いことをしたときは、処罰されなければならない。検事は、法律上の手続きやプロセスが大切で、有罪が認められるかという問題もあるので、単純ではない。ただ、正義のために仕事をしなければならないという気持ちは変わらなかった」 「検事として正義のためにずっと仕事を続けてきて、今もその延長線上にいる。世界でも不正義、不処罰がまかり通っている。そういうことに対して、何らかの形で法的に改善する方法を考えたい、その一心だ」 ◇◇◇
●赤根智子(あかね・ともこ)氏
ICC(=国際刑事裁判所)の裁判官。1956年生まれ、愛知県出身。東京大学法学部卒業後、1982年に検事に任官。函館地検検事正、法務総合研究所所長、最高検察庁検事兼国際司法協力担当大使などを歴任。2018年に日本人3人目となるICCの裁判官に就任。日本でいう起訴までの段階を担当する「予審部」に所属。任期は9年間で2027年3月まで。