【袴田さん再審】“最大争点”「5点の衣類」の「血痕の色」巡る判断は?判決控え検察側証人・法医学者らが語る
Daiichi-TV(静岡第一テレビ)
(袴田 巌さんの姉 ひで子さん・91歳) 「判決で裁判が終わることが本当にうれしい、58年闘って きましたからね」 9月21日、浜松市で開かれた支援者集会に出席した袴田巌さんの姉・ひで子さん。26日に再審=やり直しの裁判の判決が言い渡されるのを前に心境を語りました。 (袴田 ひで子さん・91歳) 「私は度胸を決めましてね、平気でおりますの/泣いても悲しんでも判決は判決」 事件は58年前、旧清水市でみそ製造会社の一家4人が殺害されその自宅に火が放たれました。 強盗殺人や放火などの疑いで逮捕されたのは、住み込みの従業員で元プロボクサーの袴田巌さん当時30歳。袴田さんは当初、犯行を否定していました。しかし、取り調べは、連日、長時間に及び、長い日で16時間以上。逮捕から20日目に袴田さんは自白します。 (捜査員) 「君の現在の心境はどうなんだ」 (袴田 巌さん) 「大変恐ろしいことをやったと思っています」 しかし、静岡地裁で始まった裁判で、袴田さんは一転、無実を主張。自白以外に決定的な証拠が欠ける中。突然、新たな証拠が発見されます。それが血に染まった"5点の衣類"です。事件から1年2か月後、みそタンクの中にあるのを従業員が発見。これが、袴田さんを犯人とする決定的な証拠となり、1980年、袴田さんの死刑が確定したのです。しかし、事件から48年―。 (伊藤 久郎 アナウンサー) 「今、弁護団の一人が出てきました。再審開始。再審開始。今、ここ静岡地裁から判断が下されました」 静岡地裁は、5点の衣類が捜査機関によってねつ造された証拠である可能性に言及し、再審開始を決定し袴田さんを釈放。そして、2023年10月から静岡地裁で再審公判が始まりました。15回にわたる審理で弁護側は無罪を主張。一方、検察側は袴田さんに再び死刑を求刑。9月26日、判決が言い渡されます。 最大の争点となっているのが「5点の衣類」に付着した「血痕の色」です。弁護側は、独自のみそ漬け実験や専門家による意見書などから、「1年以上みそ漬けされた場合、 血痕は黒くなり赤みは残らない」5点の衣類は発見直前にみそタンクに何者かが入れたと主張。一方、検察側は、独自のみそ漬け実験のほか、法医学者7人の共同鑑定書を新証拠として提出。血痕が長期間みそに漬かっても「赤みが残ることはある」と主張。再審公判では、両者の専門家である5人が一堂に出廷し、裁判所から同時に尋問が行われました。私たちは、この5人のうち、検察側の証人として出廷した久留米大学の神田芳郎教授に意見を聞きました。 (検察側証人の法医学者 神田 芳郎 教授) 「私の一貫した主張は、赤みが残る可能性は否定できないということ。弁護側の証人が言うように絶対に赤みが残らないという表現自体が、すでに科学的ではないと考えている」 神田教授らは、弁護側は「血痕が黒くなる化学反応を妨げる要因について検討が不十分」と指摘。みそタンクの中には色の変化に必要な酸素がほとんどないと主張します。 (検察側証人の法医学者 神田 芳郎 教授) 「味噌の中っていうのは非常に酸素が少ないと考えられて、そういう環境の中で、実際にヘモグロビンの色調がどのように変化するのかっていうのを具体的に調べた研究っていうのは基本的にはないと思いますので、誰にもわからないっていうのが正解だと思います。だから、必ず黒くなるっていうことは誰にも言えないのと同様に、絶対に熱が残るっていうことも、これも誰にも言えないことだと」 一方、弁護側の証人として出廷した旭川医科大学の清水恵子教授らは、「十分な量の酸素はあった」と主張。さらに、実験から「みその塩分濃度と弱酸性の性質で血液が黒くなる化学反応が進むため」「血液に赤みが残ることはない」と結論づけています。 (弁護側証人の法医学者 清水 恵子 教授) 「血痕に赤みが残る可能性があるという抽象的な可能性論を展開されていて、やはり、それは仮説である。科学者ができることは、実験結果から確率論的により起こりえる事象を導き出して、説明を申し上げるのが限界です。そうしなければ物事は先に進んでいきません」 血痕の赤みをめぐる議論への判断が判決に大きく影響しそうです。