映画『帰ってきた あぶない刑事』──武田砂鉄「タカとユージが、“いつもの感じ”を貫徹する姿勢が神々しい」
映画『帰ってきた あぶない刑事』が5月24日に公開される。“あぶ刑事世代”のライター、武田砂鉄がレビューする。 【写真を見る】仲村トオル、浅野温子、ベンガルも登場!(全19枚)
舘ひろし×柴田恭兵、が帰ってきた!
平日の夕方に再放送されていたドラマ『あぶない刑事』は、部活をサボりまくっていた自分を何度も肯定してくれた。部活よりこっちのほうが面白い。オープニングで、舘ひろし演じるタカと柴田恭兵演じるユージが、テレビを観ているこちら側に拳銃を撃ち放つ。自分はテレビの前で撃たれた演技をしていた。家には誰もいない。もうすぐ母親がパートから帰ってくる。最後まで観たい。家の前で錆びた自転車のブレーキ音が聞こえると、舌打ちしながら、それでも画面に集中し続けた。 1986年に始まったドラマ『あぶない刑事』シリーズを改めて観ると、街の変遷を伝える貴重な映像資料でもある。狙撃される喫茶店、強盗に入られる銀行、裏取引が行われるバー、もう無くなってしまったモノや姿をいくつも映し出す。あの頃、存在を消すための場所や手段がいくらでもあった。刑事ドラマを作りやすかったはず。タカとユージはとにかく勝手に動く。そうやって勝手に動けたのは通信手段が限られていたからで、近藤課長(故・中条静夫)による「大バカモノ!」は、あの2人がどこで何をしているか把握できないからこそ炸裂する叱責だった。 8年ぶりの新作映画『帰ってきた あぶない刑事』では、若手の刑事がTik Tokで情報収集する場面がある。もうあの頃とはやり方が変わってしまった、と知らせる場面でありつつ、それじゃダメでしょとの突っ込みを誘い出し、これから起こる展開の期待を高める。やっぱり、海沿いにある倉庫で派手にやってもらわなければ困る。命が危うい場面なのに、ジョークを交わしてもらわなきゃ困る。ドラマ放映開始から38年が経ち、作品に求めるハードルは上がっている。あの展開がないと困るし、かといって、お約束をスタンプラリーのようにこなしていくだけでも困る。「あの2人の今を観たい」という欲求に応えるのは簡単ではない。 定年退職してニュージランドで探偵業をしていた2人が、再び横浜に戻り、探偵事務所を開く。そこへやってきたのが彩夏と名乗る女性。母の夏子は奇しくも、2人がかつて憧れた女性でもあった。同時期に、横浜でカジノ構想を企む元・銀星会組長の息子・海堂巧の周辺できな臭い事件が起きる。