映画『帰ってきた あぶない刑事』──武田砂鉄「タカとユージが、“いつもの感じ”を貫徹する姿勢が神々しい」
公開された予告編などで、2人は平然と拳銃を持っているが、探偵が拳銃を持っているはずがない。横浜港署捜査課長、仲村トオル演じる町田透による“供与”がある。浅野温子演じる真山薫は行方不明になっていたが、やっぱり姿を表す。「落としのナカさん」ことベンガル演じる田中文男は情報屋として働いており、海沿いのレストランで調子づいて情報を漏らしてしまう。 それぞれの8年後が描かれているが、みんな、あの頃からの延長線上で暮らしている。変わっているのに、変わっていない。この辺りの描き出し方が巧妙である。どんな街にもかつての街の残り香が染み込んでいるように、今そこにいる人たちが、かつてのあの人たちであるとの安心感が続き、やがて興奮に変わっていく。 タカとユージが時折、自身の老いを自嘲する。腰は痛い。ダッシュはキツイ。でも、まだ暴れたい欲も残る。ちゃんと発散させる場面がやってくる。「そろそろ倉庫街に行くのかな?」と思っていると、倉庫街にたどり着く。お約束だ。でも、このお約束を律儀に達成するのって簡単ではない。シュッと立った時の2人の佇まい、悪党の存在感、謎の過去を持つ女(ステラ・リー/吉瀬美智子)の妖艶さ、これしかないと思わせる絡み合いが続く。 今月頭、「横浜開港記念みなと祭 ザよこはまパレード」で、オープンカーに乗って群衆に手を降り続ける2人の映像を見た。ニュース映像だけでは飽き足らず、その場に参加した一般の方の映像を動画サイトでいくつもチェックした。高画質から低画質、キレイに撮れたものから手ブレが激しいものまで、何本も見た。映画やニュース映像で2人がカッコイイのは、当然といえば当然。でも、急いで撮った素人の映像が、どの瞬間もタカとユージなのには驚く。あたかも探偵仕事の合間にパレードに参加してみました、という佇まい。人々を見て破顔する表情、ゴツゴツした手先をいじる姿、二言三言交わしながら微笑み合う様子、どの瞬間を切り取られても構わない。 私たちは『あぶない刑事』における2人の所作を熟知していて、その所作をまだまだ繰り返している。ヒリヒリした展開を含めて多幸感が続く映画だが、この「いつもの感じ」を作り上げるには各所の鍛錬があったはずで、とりわけ、タカとユージの2人が、ストイックに「いつもの感じ」を貫徹する姿勢が神々しい。安心してハラハラできる、こんな矛盾した表現が似合う映画もない。次はいつ帰ってくるのだろう。