【高校陸上】女子ハンマー投・工藤実幸乃(筑豊高)記録はランキングトップ 地元開催のインターハイで目指すは優勝
1年生の時は悔し涙を流す日々
――記録だけ見れば、高校入学後は順調に伸びていましたが、実際はいかがでしたか。 工藤 初めてハンマーを持った時は、何を理由にこんなに重いものを投げようと思ったんだろうと思うほど、見た目ほど簡単じゃなかったです。段々と慣れてきた矢先の冬に、ヘルニアが再発して入院して手術。周りは練習しているのに私だけできない悔しさ、取り残されているという不安や焦りに寂しさもあって、入院中は家族に電話しては泣いていました。その時期は辛かったですね。 ――そこからどうやって立ち直ったんですか。 工藤 姉が「そうだね」と静かに話を聞いてくれたのが大きかったですね。2ヵ月ほど投げられなかったのですが、久々に練習に合流できた時は、不安以上に、ここからまたみんなと一緒に練習できる喜びが勝っていました。 ――頑張り始めたところで、2年生のインターハイ福岡県大会ハンマー投は3回ファウル。記録なしに終わりました。 工藤 また落とされた感じがあって辛かったですが、落ちるとこまで落ちたから、これからは上に上がるしかないと思いました。今思えばこの経験があったから、ここでつぶれるわけにはいかないと思って頑張ってこられたと思います。それがU18大会の優勝にもつながりました。ターニングポイントの1年でしたね。 ――1、2年時はどこを重点的に強化してきましたか。 工藤 入学当初は本当に身体を動かせなくて、練習していても、私が一番遅いということがたびたびありました。一人ひとりに合ったメニューを用意してもらえたので練習自体はやれましたが、ついていけないことが悔しくて、涙を流すことも多くて……。私が泣くたびに先生たちが話をしてくれて、それを繰り返しながら、メンタルを鍛えてもらったのが大きかったと思います。 ――今年は心の安定と同時に、技術的な進化も感じます。 工藤 先生から「予備スウィングを3回から2回に減らしたほうが良いのでは」というアドバイスを受けて、やってみたら記録がグンと伸びました。また、九州共立大の競技会に行った時に、(同大学の)疋田晃久監督や学生に、回転の時にハンマーより顔が先に行っているから、目線がずれないように意識したほうが良いとアドバイスをもらい、そこも意識するようになりました。良くも悪くも、私は1回転目の入りがブレないので、入りの目線が投てきに大きく影響するんです。 ――以前、技術や記録を持っていても、インターハイで勝つことは簡単ではないとおっしゃっていました。勝つために必要なことは何だと思いますか。 工藤 自分本位の投げではなく、冷静さを保つこと。そして、そういう時にこそ、今まで支えてもらった人のことを一つひとつ思い出しながら投げることが大事だと思っています。 ――インターハイにはどなたが応援に来てくれますか。 工藤 筑豊高校の陸上部員は全員来てくれますし、卒業した先輩や先生、クラスの友達や家族も来てくれます。福岡じゃなかったら、こんなに大勢は来られないと思うので、応援を味方につけたいです。 ――今年は、中学から実績のある砲丸投、さらに円盤投にも取り組み、目標にしていた3種目でインターハイに出場できますね。 工藤 複数種目にこだわるのは、あこがれた先輩がハンマー投と砲丸投の両方をやっていた影響です。その先輩は文武両道で勉強も頑張る人だったので、私も同じ道を歩きたくて、ハンマー投も砲丸投も勉強も頑張ろうと決めました。円盤投は、2018年のインターハイに出場した姉(毯登/大和青藍高出身)がやっていたので中学からやりたいと思っていました。中学にはその環境がなかったのですが、高校では「体力が保つなら全部やろう」と言ってもらえました。本当にうれしいです。 ――陸上を始めたきっかけもお姉さんですか。 工藤 そうです。小学4年生までクラブチームでバレーボールをやっていて、その後は水泳をしていましたが、6歳上の姉が円盤投、5歳上の兄が中距離をやっていたので、自然と陸上になりました。姉がバレーボールをやっていたから、兄も私も続いたという感じで、姉の影響が大きいです。 ――食事や体調管理で気をつけていることを教えてください。 工藤 食事は母が作ってくれていますが、キツい練習の後は食事の量が減るので、体重が減らないように糖質の量をコントロールしてくれています。 ――文武両道は実行できていますか。 工藤 先輩ほどはできていないんですが、結構良いほうだと思います。教え方がおもしろくて楽しく勉強できる英語が好きです。 ――学校生活で楽しい瞬間は。 工藤 10分休みの間に、学食に走って行って、唐揚げやポテトを買って「時間がない!」とか言いながら食べる時間が最高に楽しいです。食べることも楽しいですが、何より友達と一緒にワイワイ言っている時間が、楽しいなって思います。そういう時間が、競技をする上でもエネルギーになっています。 ――1週間、完全にオフといわれたら何がしたいですか。 工藤 練習がしたいですけど、ダメなんですよね。昨年の北海道インターハイで「ご当地ガチャ」のコンプリートができないまま帰ってきたので、大量の百円玉を持ってもう一度北海道に行きたいです。 ――試合前に必ずやること、食べるものがあれば教えてください。 工藤 試合の前は必ず、B’zの「兵、走る」を聴きながら、バナナを食べます。バナナは、試合前と試合中に食べる用の2本を必ず持って行きます。 ――B’zのファンですか。 工藤 実は好きなアーティストはTWICEとTHE YELLOW MONKEYです。THE YELLOW MONKEYは父の影響ですね。 ――この先、どんな選手を目指しますか。 工藤 日本記録が70m51ですし、パリ五輪の標準参加記録は74m00でした。そこを目標に日本のトップで活躍したいと思っています。そんな選手になって、私があこがれた先輩のように、誰かにあこがれてもらえたり、希望になれればと思っています。
田端慶子/月刊陸上競技