母国を思い…米激戦州ペンシルベニア、投票先に悩むポーランド系住民
5日に投開票された米大統領選で、「最重要州」と位置づけられるのが東部ペンシルベニア州だ。激戦7州の中で最多となる19人の選挙人が割り当てられている。そんな同州には70万人以上のポーランド系住民がいるとされ、ハリス副大統領(民主党)とトランプ前大統領(共和党)の双方が取り込みを図ってきた。投開票前日に話を聞くと、住民が抱く複雑な思いが見えてきた。 【図解で分かる】投開票に時差も 米大統領選の仕組み ペンシルベニア州最大都市フィラデルフィア市のポート・リッチモンド地区。デラウェア川に面し、19世紀以降、石炭の積み出し港として栄えたほか、近くには造船所もあった。ポーランドからの移民が多く住み着き、現在も新たな移民が流入している。 地区を歩くと、カトリック教徒のポーランド系住民が通う教会のほか、ポーランド語で書かれた看板を掲げる店が点在していた。ポーランド食材を扱うスーパーや、ポーランドへの渡航を手配する旅行会社、ポーランド料理のレストランなどがあり、異国情緒が漂う。 「本当に悩ましい選択。完璧な候補者はいないが、母国にいる家族のことを考えると、ハリス氏に投票するしかない」。複雑な胸中を吐露したのは、2002年に米国に移住した薬局店従業員のカシア・ウェクリッツさん(58)だ。 ポーランドの隣国ウクライナがロシアから侵略されたことに触れ、「(ロシアの)プーチン大統領はかつての共産圏は自国の勢力圏だと考えているに違いない。ウクライナで起きたことは人ごとではない」と警戒する。 トランプ氏は大統領だった当時、ポーランドも加盟する北大西洋条約機構(NATO)からの離脱を示唆するなど懐疑的な姿勢を示してきた。ウェクリッツさんは「最近の物価高騰は深刻で、家計のことだけを考えればトランプ氏に投票したい。だが両親もきょうだいもポーランドに残っている。見捨てるようなことはできない」と語る。 一方、食料品店経営のヤクブ・ラジンスキーさん(37)は異なる考えを示す。05年に米国に移住して以来、苦労を重ねて自身の食料品店を持てるまでになった。だが最近の物価高騰で経営は苦しくなったという。「トランプ氏が政権にいた時の方が経済は圧倒的に良かった。今回はトランプ氏に投票する」と明かす。 だが、こうも言う。「トランプ氏がNATOに懐疑的なこともポーランドにいる家族にとっては問題だ。だが我々は米国で生き抜かなければいけない。苦渋の選択だが、今はまず経済のことを重視したい」 話を聞いた他のポーランド系住民も、ハリス氏とトランプ氏への支持で割れており、「難しい選択」だと語る人も多かった。米国に移住した時期や世代、ポーランドに親戚がいるかどうかなどで意見が異なる印象だ。 ペンシルベニア州を制した候補者が大統領選の勝利に近づくだけに、ポーランド系住民の選択が注目される。【フィラデルフィアで松井聡】