ゴールはどこだ?PGAツアーのメディア戦略 プロゴルフと音楽業界の共通点
フロリダに巨大メディアビルを建設中
現在、約400人の部門メンバーを統括するルイス氏は「ゴルフはうまくないんだ」と明かす。経歴は少し異色。前職は音楽専門チャンネルMTVの制作スタッフとして、人員や予算管理業務を任された後、デジタル部門でホームページやアプリ開発に従事。音楽以外にもコメディや子供向け番組など多岐にわたるコンテンツを扱った。
「12年前に私がツアーに入った時、(関連部門のスタッフは)25人ほどだった」。気づけばチームは大所帯に。そして2025年には、新たな拠点として巨大な施設が完成する。フロリダ州の東海岸、ポンテベドラビーチ。「ザ・プレーヤーズ選手権」の会場TPCソーグラスに隣接するPGAツアーの本社横の敷地に、広さにして約1万5000平方メートル、3階建てのビルを建設中。メディア部門を集約し、放送・配信、デジタル情報発信のさらなる強化を図る。
現在、200以上の国と地域、26の言語で放送・配信が行われているPGAツアー。彼らが設定するゴールのひとつが、すべての選手の、すべてのショットを映像に収め、ファンに届けることだ。「プレーヤーズ選手権ではそれを実施していますが、他の大会ではそうはいきません。あまりに高額だから」。広大なコースのあらゆる場所で、いくつものボールがいっせいに動くプロゴルフ。限定された選手の、限定されたホールのプレーだけを中継するこれまでの放送モデルから脱却する挑戦だ。
将来的には「真のワールドフィード」を世界中に流したいという。目下のCBSなどのテレビ局が放映しているメインの中継映像とは違う、各国でより好まれる選手のプレー映像を届ける。「極端なことを言えば、日本であればヒデキのプレーを中心に据えた映像を(各国の放送局に)送るのです。世界中のファンは、自分たちの特定の欲求や好みに合わせて、より個別にカスタマイズされたフィードを入手できるようになる」
ポスト・タイガー時代への適応
1990年代以降、PGAツアー人気を背負ったタイガー・ウッズは近年、度重なる故障もあり第一線から退きつつある。ゴルフ界にとっては大きな痛手だが、ルイス氏は次の時代への準備に胸を張る。 「タイガーは稀代の選手。今後、25年かかっても(同じような存在が)出てくるかどうか。ただし、ここ10年のタイガーはピークにはいない。1年に5試合から10試合の出場にとどまっている。私たちはもうタイガー・ウッズの恩恵からは脱却しているのです」