<第94回選抜高校野球>センバツ21世紀枠 候補校紹介/2 只見(東北・福島) 山村留学、白球追い絆
「あと10本いこう!」。しんしんと雪が降る外の寒さを吹き飛ばさんばかりに、校舎1階の駐輪場に元気な声が響いた。バットを振る仲間にトスを上げる山内優心(ゆうしん)=2年=は「山村教育留学制度」を活用し、地元の福島県会津若松市から車で約2時間離れた県立校の只見に進み、親元を離れて寮生活を送りながら白球を追う。 福島県の西南に位置する只見町は県内で最も過疎化が進む地域の一つだ。町民約4000人のうち、65歳以上の高齢者が約47%を占める。高校の全校生徒はわずか86人。来年度からは全学年が1クラスとなる予定だ。例年、1、2年生のみで臨む秋の大会で、ベンチ入り人数の上限まで埋まることはほとんどない。現在は選手13人、マネジャー2人で活動する。 少子化対策として、町が2002年から導入したのが「山村教育留学制度」だった。町外の生徒を受け入れるために町立の宿泊施設を寮とし、生活や教育の支援を通じて「第二の古里」として町に愛着を持ってもらい、地域活性化につなげる狙いがある。制度導入から約20年で、これまでに約200人を受け入れた。現在のチームには山内優を含めて町外出身の選手が4人、マネジャー1人が在籍している。 山内優は「自立した生活を送り、人間として成長したい」と只見への進学を考え、両親も背中を押した。練習後の帰路は雪道を約2キロ歩き、寮に戻るとすぐに洗濯に取りかかるのが日課だ。夕飯後は勉強と自主練習に励む。「慣れるまで大変だったが、今は生活サイクルができた。実家の猫が恋しいですけど」と笑う。 スポーツ推薦と違い、実力が高い選手ばかりが集まるわけではない。加えて、山村留学で入学した選手以外は全員が同じ地元中学の出身者。主将の吉津塁(2年)は「入学当初はどうしても壁があった」と一体感を醸成する難しさを語る。 最初はぎこちなかった関係も、同じ白球を追うことで徐々に解消した。特に現在のチームは遠慮せずに、時には厳しい言葉で互いに指摘し合うように意識してきた。吉津主将は「突出した選手はいないが、例年以上にチームワークが良い」と強みを分析する。一丸となったチームは21年秋の県大会で8強入りし、小さな町の住民を喜ばせた。【川村咲平、写真も】=つづく ……………………………………………………………………………………………………… ◇只見 学校創立は1948年。野球部は76年創部で、甲子園出場経験はない。シーズン中は町が地元の野球場を貸すなど地域が一体となって選手を支える。