ストレスから守ってくれるはずの「副腎皮質ホルモン」が、なぜか「胃」を攻撃してくるワケ
「心身の不調は自律神経が原因かもしれない」「自律神経のバランスが乱れている」などとよく耳にします。そもそも、自律神経とはどのような神経なのでしょうか? 簡単に言えば「内臓の働きを調整している神経」。全身の臓器とつながり、身体の内部環境を守っています。自律神経に関わる歴史的な研究を辿りながら、交感神経・副交感神経の仕組みや新たに発見された「第三の自律神経」の働きまで、丁寧に解説していきます。 【写真】ついにわかった「ジムに行かなくても体力がつく」すごい方法 *本記事は『自律神経の科学 「身体が整う」とはどういうことか』を抜粋・再編集したものです。
ストレスに耐えるために出るホルモン
ストレスにはすぐに終わるストレスもあれば、終わりの見えないストレスもあります。ちょっとのストレスなら積極的に対応できても、ストレスが長引くとなると、誰しも消極的になりますよね。慢性的なストレスに対峙していく上で「副腎皮質」が重要であることを見出したのは先のセリエです。セリエの若い頃についても触れましょう。 1925年、セリエがチェコの医学生だったときの話です。感染症の患者さんが何人か現れ、教授らが彼らを診察しました。どの患者も元気がなく、いかにも病人らしい風貌だったといいます。彼らは口々に頭痛や関節の痛み、食欲不振、微熱などを訴えました。でも教授はこれらの訴えは重要ではないと言いました。どのような病気にもある訴えで、診断の役に立たないからです。 診断時に重要なのは一般的な症状ではなく、その病気に特化した、特異的な所見を見出すこと、そうセリエは教わりました。 「なぜ一般的な症状は意味がないのか?これも病気の徴候ではないのか?」 セリエは疑問を持ったようです。 その後、さまざまな条件下で、胸腺・リンパ組織の萎縮、胃・十二指腸潰瘍、副腎の肥大といった共通の生体反応が起こりうることを認め、この非特異的な反応を汎適応症候群、あるいはストレス状態とよぶようになるのです。 副腎には髄質と皮質がありますが、セリエが着目したのは外側の皮質のほうです。慢性的なストレス下では、副腎皮質からコルチゾール(糖質コルチコイドの一種)などの副腎皮質ホルモンが多く分泌され、副腎が肥大するのです。コルチゾールはストレスに関係することからストレスホルモン、コレステロールからつくられ、ステロイド核をもつ化学構造からステロイドホルモンともいわれます。 コルチゾールの大きな働きは、血糖値を上げること。炎症や免疫を抑える作用もあり、血糖値を高め、過剰な炎症を抑えることで、生体がストレスに耐えられる状態をつくりだしています。 コルチゾールは胃にも影響を及ぼします。胃液の主成分は強力な酸である塩酸(胃酸)です。コルチゾールはこの強い酸の分泌を促すので、コルチゾールはこの強い酸の分泌を促すので、分泌が長く続くと胃潰瘍を発症しやすくなります。胃液には胃壁を胃酸から保護する粘液も含まれるのですが、悪いことにコルチゾールは粘液の分泌のほうは抑えるのです。 ストレスから守ってくれるはずのコルチゾールが、なにゆえ私たちの胃に対しては攻撃的なのでしょう? 「もうこれ以上のストレスには耐えられない」 そういう体の悲鳴なのかもしれません。サインを出すことで、更なるストレスから私たち自身を防御してくれているのでしょう。 サインに気づかず、それでも体への負荷が続いた場合には、さすがの副腎皮質も疲れ切ってしまい、ストレスに対処できなくなるでしょう。そうなれば病気や死につながりかねません。 さらに連載記事<意外と多い…1日に分泌される「唾液の量」と「その種類」>では、人間の唾液の仕組みについて詳しく解説しています。
鈴木 郁子(歯学博士・医学博士・日本保健医療大学保健医療学部教授)