いつか来るといいなと思っていたら「ほんとに来たー!」 国民的ドラマ「相棒」ノベライズの装画を描く仕事の現場
描くのは、意外と亀山さんのほうが難しかったです。右京さんの場合は、オールバックに眼鏡、英国スタイルのスーツにネクタイで「相棒」というタイトルロゴがあれば、ある程度「右京さん!」という印象になると思うんです。亀山さんにも、フライトジャケットやTシャツといった定番のスタイルはあるけれど、そこまで特徴的なものではないですよね。あと亀山さんの場合、喜怒哀楽の表現によってお顔の見え方もかなり違ってくる。その豊かな表情を絵にどう落とし込んでいったらよいか、結構悩みました。 ■縛りがあることでしか描けない絵がある気はします ――上・中・下巻、3冊でそれぞれ構図はどのように? ドラマの雰囲気や、右京さんと亀山さんの恰好よさが伝わるといいなと思いながら描きました。静と動の対比とか、あと下巻では、右京さんがパッと手のひらを前に突き出す瞬間を描いたのですが、知的な人物のちょっとお茶目な一面を表現したいと思って、チャレンジしました。 ――今回はデジタルでラフを描いたあと、アクリル絵具で原画を仕上げていただきました。 デジタルであれば、いろいろ試したりもできるし、やり直せるところが良さでもありますよね。でも、アナログには一発勝負の良さ、みたいなものもあるかなと思うんです。もちろん直せたほうがいいときもあるんですけど、きっちり描くことだけがすべてじゃないというか。まあ不自由ではありますけど、そういう縛りがあることでしか描けない絵があるような気はします。 ちょうどアクリル絵具で描いているときに、途中で写真を撮ったものをお見せしますね。 汚れないようにチラシでカバーしながら、下描きのiPadを横に置いて、見比べながら描いていきます。最初にトレースしてはいるんですが、やっぱり色とか、細かいところまでは紙に写したとき、きれいに写しきれないので、横に置いて見ながら描き進めていきます。
――高杉さんは、人物を描くとき、ご家族をモデルにされると伺ったのですが。 はい、しょっちゅうポーズのモデルとして協力してもらっています(笑)。家族にその体勢をとってもらい、撮影して資料にします。人体のつくりとか、位置関係をはかったりするのにも、よりリアルな感じで描きやすいんです。 先日、同じ朝日文庫から出た、北原亞以子さんの時代小説『夜の明けるまで』(「深川澪通り木戸番小屋」シリーズ)でも装画を描かせていただいたんですが、将棋を指す男性の背中の感じとかは、夫にこの姿勢になってもらいました。あと、娘には簡単な着物を羽織ってもらって、着物のしわの感じとかの雰囲気を撮って。写真の骨格をベースに着物のディテールを描いていきました。 「相棒」でも、上巻の、右京さんの腕の組み方は、娘にやってもらいました。下巻は、自分で手をのばして洗面所の鏡に映したものを撮って、描きました。 リアルな手って、頭の中で想像しているのとちょっと違いますから。たとえば、手をグーで握る場合も、親指を中に入れているのと、出して人差し指にくっつけているのと、完全に離しているのでは、見る側の印象も違ってくると思うんです。 ――「神は細部に宿る」という言葉がありますけど、そういう細部があって、全体で見たときに、その人らしさが際立ってくる? 人ってこう、大胆な人とか、内気な人とか、そういったキャラクターがちょっとした仕草に出ると思うんですね。ですから、登場人物の“深み”のようなものが、細部の積み重ねで伝わる絵になるといいなと。立ち方ひとつとっても、一人ひとり違うはずですから、そういう小さいところもよりリアルに描いていくことで、その人の日常の立ち居振る舞いまで感じられるような絵になるといいなあと思っています。 (構成/書籍編集部 山田智子)
書籍編集部