70~80歳まで「働くことが当たり前」の社会で重要なのは「価値観の転換」だった
多様な価値観と年齢の関係
一方で、「生活との調和」はワークライフバランスを保ちながら、生活に必要な収入が得られることを重視する価値観であり、仕事は生活の手段という意味合いが強い。この価値観は年齢ごとの変化が少なく、概ねいずれの年代においても必要とされている。 「仕事からの体験」の因子得点は、20代で高い値を記録した後、中年にかけて低下するが、定年後しばらくたつと20代の水準まで回復する。 これは「わくわくするような体験をすること」「様々な人と交流する機会があること」「いろいろな種類の活動をすること」など、仕事を通じた体験を日々楽しむことを重視する価値観である。 多くの人が、若い頃には仕事で新しいことを体験することを楽しみにしていたはずであるが、長い会社員人生の中でこうした感覚は徐々に失われていく。人は職業人生において、中高年のときに忘れていた価値観を定年後に取り戻すという経験をする。 仕事を通じて「体を動かすこと」も高年齢者にとって重要な価値観である。体を使う仕事に対する偏見を持つホワイトカラーは少なくないが、年齢を重ねるにつれて仕事を通じて「体を動かすこと」に価値があることに気づく。閉じた空間から出て、適度に体を使う仕事に就くことは日々の生活を規則正しく保つ運動にもなってくれる。 そして「能力の発揮」を目指す価値観である。高齢になっても、自ら学び直すことなどによって、自身の専門性を高め続けるキャリアを選択できることはすばらしい。 学ぶことを苦にしない人であれば、平均的には能力が低下する時期にあっても、それを維持し、向上させることができる。実際に、対人能力、対自己能力は高齢になっても伸び続けると感じている人も多い。 こうした能力をいかに高めるかは、仕事をする上で必要なだけではなく、定年後の幸せな生活を営むための重要な要素になる。低下する体力や気力や思考力などと向き合いながらも、持てる能力を発揮し、また向上させる働き方も可能なのである。 一方で注意すべきは、この価値観は「高い収入や栄誉」を目指す働き方とは無関係ということである。後者は収入や地位の向上そのものが目的なので、能力の発揮は目的達成のための手段にすぎなくなる。