<春に輝け・常総学院の挑戦2021>/下 二枚看板が切磋琢磨 互いの長所認め成長へ /茨城
「常総の打線は打てる。仲間はやってくれる」。2020年10月27日。秋本璃空(りく)(2年)は、自分でも驚くほど冷静だった。関東大会準々決勝。対戦相手は千葉県1位の木更津総合、あと2回勝てばセンバツに大きく近づく。試合前までの、「今まで生きてきて一番」の緊張は、マウンドに立つとかき消えていた。 176センチ、80キロ。右腕から繰り出す多彩な変化球と最速145キロの直球で20年秋の地区予選以降、公式戦防御率は1・65。監督からの信頼も厚く、ここ一番を任されてきた。 この日警戒していたのは、相手の1番打者・秋元俊太(同)。中学時代の練習試合で3打席3安打を浴びた。「こいつに打たれたら流れが行く」と投じた直球は高めに浮き、センター前に飛んでいった。 しかし、失投はそこまで。焦ることなく、続く打者を捕邪飛、二ゴロで併殺に取り、そのまま力投。8回無失点に抑えた。 「秋本でだめなら仕方ない」。そんなチームからの信頼に応えるように、結果を出した大黒柱。その秋本とエースナンバーを競ってきたのが、同じく右腕の大川慈英(じぇい)(同)だ。 身長は同じ176センチ。68キロと比較的細身の体格から繰り出すストレートは、最速146キロ。木更津総合戦では、秋本に代わって九回に登板し、甘く入った変化球を打たれて1点を失った。味方の猛打で試合には影響しなかったが、「ただ投げているだけだった」と悔いが残った。 しかし、島田直也監督から常に言われてきたのは、「打たれて覚えなさい」という言葉。続く準決勝・東海大甲府戦で先発出場が言い渡されると、同じ失敗はしないと心に決めた。得点板を振り返らず、目の前の打者だけに集中。140キロ超の直球は走り、得点板に0を着実に刻んだ。結果は無失点完投。秋本の途中登板も視野に入れていた島田監督にとっても、うれしい誤算だった。 「秋本だけに重荷を背負わせない」と、折に触れ、エースを気遣ってきた大川。しかし、「やっぱり1番がいい」が本音だ。 「秋本に勝っているのは球速だけ。ほかは全部(負けている)」と、変化球の精度を高める大川。一方で、秋本は「大川の直球に近づけたい」と投げ込みに力を入れる。 関東大会後、島田監督に2人が呼び出された。「次はどっちがエースに選ばれるかわからないから」。念願の舞台に向け、二枚看板は切磋琢磨(せっさたくま)を続けている。