おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第34巻編】~さらば、仮面の貴公子! 超人予言書の正体は『週刊少年ジャンプ』そのものだった⁉~
●終わらない試合の果てに見えた理想郷 やはり厄介なこのビッグ・タスク。中盤戦までロビンのことを散々苦しめるわけですが、その攻略のヒントをくれたのは、試合中に唐突に現れた少年が託してくれた幸運の青い鳥、ブルー・サンダーでした。 このブルー・サンダー、ロビンの危機にリングへ羽ばたきマンモスマンの攻撃を邪魔したことで、哀れパワフル・ノーズで天井に叩きつけられて哀れにも死んでしまうのですが、その死骸が血に飢えたビッグ・タスクの自動追尾機能を誤作動させ、絶体絶命のピンチを救ってくれたのです! つまりは、それまで猛威を奮ったこのビッグ・タスクこそが、実はマンモスマンの弱点でもあった!? そこからロビンに「お前は弱いマンモスだ」と指摘され、マンモスマンは激しく動揺していきます。本当に強いマンモスは、己の牙がやがて自身の脳天を貫き絶滅したからです。 そもそも『キン肉マン』は、相手のストロングポイントを必ずぶち折ってから勝つというのが暗黙のお約束になっている作品で、ここにきてそれを見事に達成したロビンマスク。フィジカル最強の男の弱点は精神の脆(もろ)さにあったそれをロジカルで破る、寓話のような教訓めいたぶち折り方が見事です。普段ならこのまま決着へと突き進んでいく流れですが...この試合が多くのファンから作中屈指のベストバウト認定されている真の理由はこの先です。恐ろしいことにこの試合、なんとここからが本番なのです! まず、大将フェニックスもおそらく先の理由でマンモスマンの試合はもう終わったとみなし、ロビンマスクもろとも死ねとばかりに切り捨てにかかります。その裏切り行為に激怒したマンモスマンは再奮起、なんとこの期に及んでまだ隠しておいた超大技アイス・ロック・ジャイロで対戦相手のロビンのみならず、味方のフェニックスたちまでぶちのめそうと謀反を起こしました。 そして、その勢いのままなだれ込む伝説回のサブタイトル「真剣勝負の醍醐味!の巻」。 そもそものマンモスマンの悲劇は、あまりにも強すぎたことです。ゆえに闘いに価値を見いだせず、他人に敬意も持てず、明確な目標もないまま、自分の価値を最初に認めてくれたフェニックスに仕えることになります。やがては王になると信じた彼の求めるままに、武人に反する数々の汚れ仕事に手を染めてきました。 しかし彼は、ここで初めて、己を倒しうる力を持つと認めた好敵手とめぐり会えたことで、己の真の望みを知るんです。 それこそが、この回のサブタイトル"真剣勝負"! マンモスマンの造反理由はただひとつ「真剣勝負の邪魔をするな」。これだけです。その理由のなんとシンプルにして痺(しび)れることでしょう!! 思えばこの王位争奪戦、地位、金、名声、復讐、そういった欲望を叶えるため参戦してきた者がほとんどで、主人公サイドのキン肉マンたちですら平和のため、正義のため、罪滅ぼしのため、そんな大義的かつ観念的な理由で参戦しています。 しかし、そのなかでマンモスマンだけが唯一"真剣勝負"という個人的かつ超人レスラーとしてもっとも純粋(ピュア)な願いを秘めていたのです。僕がマンモスマンを愛してやまない理由はここに尽きます。