戦争に利用される「ピンクウォッシュ」 イスラエルの“LGBTQフレンドリー”イメージ戦略とは
たとえば2001年、アメリカがアフガニスタンに軍事侵攻を始めた際、アメリカ政府はイスラム主義勢力タリバンが行っていた女性への人権侵害や同性愛者への迫害などを理由に、「文明的なアメリカ」と「野蛮なイスラム」という対立構造を強調した。 性的マイノリティーの思想や文化などを研究する「クィア理論」研究者のジャスビル・プア氏は、「このことが、アメリカの侵攻は『人権を守るための正当な行動だ』という印象を市民に与え、支持を高めた」と指摘する。 また、フランスやオランダでは、同性愛者の権利を訴えながら移民排斥を訴える極右政党が台頭している。 これについてジェンダー研究で著名なジュディス・バトラー氏は「LGBTQを受け入れる『先進的な私たち』の文化は、LGBTQを受け入れていない『後進的なイスラム』価値観とは相容れることはできないとして文化的対立を強調し、極右政党の移民排斥の主張につなげている」と指摘している。
また、国だけではなく、企業も自社のイメージを「ピンクウォッシュ」するケースもある。 イギリスメディアによると、イギリスの軍需企業大手の「BAEシステムズ」は、LGBTQを支援するイベントのスポンサーを務めて、人権に配慮する企業だというイメージ戦略をとっている。 しかし、この会社が作った武器はサウジアラビアに輸出されイエメンへの空爆に使われ、多くの市民の命が奪われる世界最悪レベルの人道危機を引き起こしている。 LGBTQフレンドリーだとうたうことで、戦争と死をもたらす武器の取引という事実から目をそらさせている、といえる。
日本に住むユダヤ系性的マイノリティーのハナさんは私たちのインタビューに対し、「大企業がLGBTQフレンドリーのイメージやレインボーフラッグを使って商品を宣伝しているのを見ると、 それはただの見せかけで、自分たちが金儲けに利用されているだけのように感じる」と訴えている。 人権を守ろう、というのがLGBTQ運動の根幹であるのに、それを戦争に利用するということは許されることではない。 私たち一人ひとりがその歴史や背景、実態をきちんと見抜こうとする姿勢をもち、表面的なアピールにのせられないようにすることが必要ではないだろうか。