平成の30年は「失われていなかった?」グラフが示す意外な一断面
日本経済にとって、平成は「失われた○○年」などのように、ややもするとネガティブな形容詞がつきまとう時代でもありました。5月1日から令和という新しい時代を迎えるにあたり、平成の日本経済をある1枚のグラフでフォーカスしてみました。第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストの寄稿です。
日本経済が最も強かった平成元年
平成元年(昭和64年)、すなわち西暦1989年は日本経済が最も強かった年にあたります。その年の経済企画庁(現在の内閣府)の月例経済報告には「企業収益は更に一段と増加しており、企業の業況判断も良好感が極めて高い水準にある」という、日本経済がバブルで沸きかえる様子が描かれています。 ストレートな表現を避ける霞ヶ関文学において「更に一段と増加」、「良好感が極めて高い」といった強い表現は滅多にお目にかかれませんから、この一文は当時の日本経済が如何に強かったかを物語っています。そんな中で、人々は自信に満ち溢れ、失敗を恐れず大胆な投資を繰り広げていました。日本企業がニューヨークの超高層ビルのロックフェラーセンターを買収したり、日経平均株価が4万円に接近したりしたのもこの年です。 その後、日本経済がバブル崩壊とその後遺症に苦しんだのは周知のとおりです。この間、「失われた〇〇年」「平成不況」といった日本経済を悲観的に表現する言葉が多く誕生しました。
1人当たり実質GDPは米国と互角の伸び
しかし、この1枚のグラフを見ると、バブル崩壊後の日本経済が大きく損傷したとは思えません。これは日本と米国の1人当たり実質GDP(国内総生産)を示したものです。 1980年を始点とする両国の曲線は1980年代後半のバブル期に日本が大きく米国を凌駕した後、2000年代前半に追いつかれますが、それ以降はほぼ互角の伸びを示しています。通常、「日本経済が没落した」という文脈では、国全体のGDPが米国に大きく劣後したり、中国に抜かれたりしたことを以ってそのように評価されます。しかしながら、一人当たりのGDP成長率でみた場合、日本経済の活力はほとんど失われていないというわけです。 経済的視点で平成を振り返ると、高成長を謳歌した昭和と比べて暗い30年間だったとの評価が多いですが、普段とは別の視点で日本経済をみると「そもそも失われていない」のもまた事実です。
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